Compass

№97    

「Paris」


 

「大正」

 

カクテル名「チェリーブロッサム」。

 

ロンドンの名門ホテルである 「ザ・サヴォイ」の

 

カクテルブックにも掲載された「桜花」を意味する

 

この世界的なカクテルが港町:横浜で生まれたことは

 

カクテルファンなら誰もが知るところであろう。

 

今宵はその一杯の発祥店となった名門バーへと向かう。

 

横浜、ひいては日本の本格バーの草分けとして有名な

 

カクテルバー「パリ」。大正12年創業の老舗バー。

 

大正12年といえば関東大震災が起こった年である。

 

創業当時は「カフェ・ド・パリ」として伊勢佐木町に

 

店舗を構えていたが後に現在の場所へと移転している。

 

初代オーナーバーテンダーは田尾多三郎氏。

 

氏こそが「チェリーブロッサム」の生みの親であり

 

その一杯は海を渡り世界各地へと広まったのである。

 

初代亡き後、お店を継いだ氏の奥様である幸子ママは

 

よくお客様の皆様にこうおっしゃっていたそうだ。

 

「立って呑めなきゃバーじゃないわ。」

 

お店は今でもスタンディングスタイルであり、

 

現在は田尾ご夫妻の息子さんの奥様が止まり木を守る。

 

実は田尾多三郎氏直筆のカクテルレシピカード達は

 

お店で大切に保管されており、丁寧な英文で書かれた

 

レシピを眺めていると今でも田尾多三郎氏さんが

 

目の前のカウンターに立っている気がしてしまう。

 

ただし「チェリーブロッサム」のレシピカードだけは

 

そう簡単には見せては頂けないことを付け加えておく。

 

 


「桜花」

 

「パリ」の重厚感があり、そして歴史ある木製バードアは

 

ご年配のお客さんでも「初めての人が押すのは勇気がいるね」

 

とおっしゃる方は多く、銀座の名店「ボルドー」の扉と同様

 

私も初めての時はとても緊張したことを今でも覚えている。

 

しかし一度扉を押しフロアに入るとBGMの無い静かな空気、

 

落ち着き有るバックバーに整然と並ぶオールドボトル達の顔、

 

この空間をゆっくり愉しむお客さん達のご様子を拝見すると

 

自然と心が豊かになり、私の目も輝き出してしまうのである。

 

今でも十分若いつもりであるが、こんな私でも初めてバーへ

 

通った頃には生意気にバーで呑むカクテルや洋酒を追求する

 

ということが主眼となり、カクテル技術や洋酒の質ばかりを

 

追い求めていた時期もあったが、今ではそれらも含めつつ

 

雰囲気、空気、人、流れる時間という総合的な「バー」という

 

「場」を愉しむようになってきたと思っている。そしてそれは

 

「洋酒」の文化を知るだけではなく我が国が持つ「バー」という

 

脈々と続く素晴らしいこの文化を経験するということにも

 

繋がっていると、美しき「チェリーブロッサム」を呑みながら

 

私の勝手な思いこみを笑顔で聞きご自身のご経験やお考えを

 

おっしゃるスレンダーで凛とした田尾女史の一杯のカクテルは

 

技術が云々やレシピがどうこう、使用材料があれこれは抜きで

 

是非「場」を愉しみながら呑んできたいと思うのである。

 

「50代、60代のお客さんが多いので是非20代や30代の

 

バーがお好きなお客様にも一度お越し頂きたいと思います。」

 

という田尾さんが作る「元祖」チェリーブロッサムをお試しあれ。

 

  


「Paris」

 

横浜市中区常盤町3-27千草ビル1F

 

045-641-7533

 

最寄り駅

 

JR関内駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

バーのあかりは夕方の4:30には灯り、

 

昔からのお客様達がまばらにバードアを

 

押す姿を拝見することが出来ます。

 

元祖「チェリーブロッサム」は現在色々な

 

カクテルブックに掲載されているレシピとは

 

少し異なり創作当時のレシピのままです。

 

大変貴重な洋酒やシェイカーなども一見の価値あり。

 

そしてレシピカードに至っては涙ものです。

 

カウンターに肘をかけてゆっくりとお酒&会話を

 

愉しみたい古き佳き薫りがタップリするバーです。