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№94    

「日の出理容院」


 

「床屋」

 

今宵は横浜桜木町で電車を降り「野毛」へ向かう。

 

場末の香りがタップリするこの街は居酒屋から

 

本格バーまで幅の広いラインナップが楽しめる

 

大変懐の深い横浜を代表する盛り場だと言える。

 

立ち呑みの名店「福田フライ」で諸兄の皆さんと

 

酎ハイで乾杯しゲソ焼きの辛タレからスタートし

 

鮑のキモ塩辛で日本酒をやりつつ、極めつけは

 

口の中に入った瞬間にトロリとする食感が絶品な

 

シロモツを味わい満足した所でお店を後にする。

 

私がバー好きであることを知る今回の案内人である

 

諸兄のお一人が次はぜひバーへ行こうということで

 

都橋商店街から横道へと一本入ったところで

 

ここですよと着いたお店の透明ガラス戸の玄関には

 

縦書きで「日の出理容院」とシッカリ書かれており

 

どこからどう見てもこれは床屋ではないだろうか。

 

しかもお店自体の年輪も相当な積み重ねを感じる。

 

まさかBarに行く前に散髪でもしようとでも?

 

と思うのも無理ないのは分かってもらえるだろうが

 

そんな事はお構い無しに諸兄達は硝子戸を開ける。

 

真っ白な木綿製のカーテンの奥には果たして何がと

 

少しだけ胸の鼓動の早まるのを感じながら店内へ入ると

 

グンと落ちた照明の中に浮かび上がるバーカウンター。

 

お店は平成14年の夏にオープンして丸三年だが

 

店舗は昭和30年代に建てられたという理容院を

 

外装、内装そして店名までも昔のまま利用しており、

 

古き佳き時代の香りあるノスタルジックな空間が広がる。

 

レトロ感たっぷり黒電話や店内のタイル貼りがまた佳い。

 

 


「背中」

 

キャンドルのほのかな明かりに浮かび上がるカウンターの

 

ストゥールにゆっくり腰掛け何を頼もうかと少し悩んだが

 

このどこか懐かしさある雰囲気の中でつい呑みたくなった一杯は

 

大衆ウイスキーの雄であり「お父さん達のお酒」である

 

通称「角ハイ」ことサントリー角瓶のハイボールだ。

 

バーキーパーめぐみさんが差し出した一杯をグッと呑むと

 

炭酸がジュワっと喉奥で弾け上がり爽快感に思わずにんまり。

 

ドリンクは生ビールやバーボン、スコッチ、ジン、など

 

一通り揃っており諸兄の皆さんもそれぞれのお好みで

 

ドリンクを愉しんでいらっしゃるご様子で何よりだ。

 

カウンター後壁にはロックの大御所レッド・ツェッペリンの

 

特大ポスターが貼ってあり若きご店主が好きだとのこと。

 

BGMに使う曲はツェッペリンをはじめ多種とのことだが

 

今宵は折しも大雨。雨音がBGM。こんな夜もイイな。

 

カウンターでは大衆酒場やバーの話に花が咲いており

 

そんな私もついついこの居心地の佳さにおしゃべりに

 

なってしまっている。オランダ語で"弁護士"の意を持ち

 

このお酒を飲むとなめらかな感触で活舌がよくなると

 

言われているエッグリキュール「アドヴォカート」を

 

呑んだ訳では無いんだけどなと馬鹿なことを思ったり。

 

ふとこの風景をカメラに収めようとウイスキーグラス片手に

 

ドア付近からレンズをカウンターに向けると

 

酒場歴戦の強者である諸兄の皆さんの何とも温かみのある

 

背中達が並んでおり、つい嬉しくなって心の中で

 

静かに「乾杯」とつぶやいてグッと呑み乾すお酒が

 

これまた旨い。豊かな時間は今宵もゆっくり過ぎていく。

 

 

  


「日の出理容院」

 

神奈川県横浜市中区宮川町1-8

 

045-253-3095

 

最寄り駅

 

JR線・横浜市営地下鉄線 桜木町駅より徒歩8分

 

お店一口メモ・・・

 

野毛を愛する愛飲家の方々が集まる隠れ家的バー。

 

ドリンクはキャシュ・オン・デリバリー方式、

 

つまり料金前金制となっており明朗な会計です。

 

ウイスキー、ジン、ラムなどドリンクは500円から

 

用意されておりソーダ割などは600円から。

 

リキュール類もあり女性も飲みやすいカクテルもあり、

 

大変リーズナブルな価格でお酒と雰囲気を愉しめます。

 

カウンター席、テーブル席の他にスタンディングで

 

ドリンクを呑むことも可能となっております。

 

野毛に行く際には是非とも立ち寄りたい佳店です。