Compass

№89     

「神喜屋/MIKIYA」


 

「酒庵」

 

JR飯田橋駅を下りて神楽坂へ向かう。

 

夜ともなると人通りも多くなる神楽坂通りを

 

ゆっくりと登りながら今宵の一杯目を描く。

 

毘沙門天前へ差し掛かったところで

 

やはりいつものジントニックからスタートかなと

 

お店のストゥールに腰掛け呑む姿を想像する。

 

その毘沙門天向かい、石畳の裏路地を静かに進むと

 

熱燗好きにはたまらない私もしばしば通う名店

 

「伊勢藤」の入り口が目に入るが今日は遠慮し

 

そのさらに奥にある小さな赤い板に「神喜屋」と

 

書かれたお店の引き戸を静かに開け入る。

 

カウンター内の黒髪の若き女性バーテンダーが

 

「お久しぶりです。今日は寒い日ですね。」と

 

冷える雨の日にやってきた私を気遣ってくれる。

 

彼女はこのお店の店主、「MIKI」女史。

 

店舗経営は「仕事が終わったら必ず飲みにいきます。」

 

というお酒、特にジンが大好きなMIKIさんと

 

深夜にカウンターに立つ酒場をこよなく愛する男

 

「ワン」氏のお二人。元々同じ会社の同僚であり

 

共同出資という形でここ神楽坂に物件を見つけ

 

小酒場 「神喜屋」を開店するに至ったそうだ。

 

「バー」とはせず、あえて「小酒場」としたのは

 

料亭並ぶ奥座敷というべきここ「神楽坂」にある事、

 

そして黒色で統一され落ち着きある雰囲気の

 

神喜屋店内は「和」のテイストが多分に感じられ

 

MIKIさんが毎日手入れを行う入口付近の

 

カウンター上の生け花が大変印象的なことから

 

漢字で表現する方が似合っていると感じたからだ。

 

MIKIさんもバーテンダーの仕事は今回初めて。

 

カクテルブックを読み独学でレシピを覚えながら

 

神楽坂を中心に仕事後色々なバーへと足を運び

 

接客というものを肌で覚えている真っ最中である。

 

モルトの銘柄などもただ今勉強中ということで

 

お客さんに教えてもらうということもしばしば。

 

「神楽坂以外の深夜までやっている近場のバーへ

 

飲みに行きたいと最近良いお店を探しています。」

 

とMIKIさんは目を輝かせながら語る。。

 

 


「映画」

 

店内は5.5坪ほど。そしてストゥールは8脚。

 

バックバー、そしてカウンターにはモルトから

 

ラム、バーボンまでずらりとボトル達が並ぶ。

 

天井からはプロジェクターがぶら下がっており

 

私はゴードンジンのジントニックを呑みながら

 

壁に映し出されるJazz回顧録に夢中になる。

 

古い洋画作品なども用意しているとのことなので

 

モルトをちびちびやりながらカサブランカあたりを

 

観るなんてのもきっと心地佳い時間となるだろう。

 

22時を過ぎた頃、日中の多忙な仕事を終えた

 

ワン氏がその疲れも見せず笑顔でカウンターに立つ。

 

その「行動力」、いや「行動欲」には驚かされながら

 

バイタリティーの塊というべきワン氏の顔に癒される。

 

ハードボイルドからお酒、アニメ、ジャズの話まで

 

ワン氏の会話内容は多岐に渡り今宵も夜は更けていく。

 

ふと壁面を見ると1987年劇場公開作品アニメ、

 

山賀博之監督、庵野秀明氏や坂本龍一氏も参加した

 

名作「王立宇宙軍 オネアミスの翼」が映っている。

 

「おお、ワンさん懐かしいですね、オネアミス!」

 

中学生時代、どうしてもこの映画を観たくて仕方なく

 

親から借金をしてまで映画館へ足を運んだ作品だ。

 

当時を懐かしみつつ今宵も夜は深く更けていく。

 

閉店後、これからの店舗展開、酒収集の方向性などを

 

語り合いつつワン氏と深夜の神楽坂バーホッピング。

 

日中遅くまで会議に出席し明日は大阪出張だというのに

 

疲れを見せず熱く語る氏にはただ敬服するばかりだ。

 

ここ「神喜屋」が誕生しまだ1年にも満たないが、

 

同世代が経営するこのバーにこれからも注目したい。

 

 


「神喜屋/MIKIYA」

 

東京都新宿区神楽坂4-2

 

03-5261-5255

 

http://mikiya-kagurazaka.com/

 

最寄り駅

 

JR飯田橋駅西口より徒歩5分

 

地下鉄神楽坂駅より徒歩5分

 

神楽坂通り、毘沙門天向いの路地奥

 

お店一口メモ・・・

 

モルトを中心にスコッチ、バーボン、ラム、

 

ジャパニーズウイスキー、ワイン、ビール、

 

シャンパン、電氣ブランまでズラリと揃う

 

お酒達はワンショット500円程度から

 

高いモノでも3,000円程度ということで

 

都心で飲むには大変良心的な価格設定です。

 

客層は多岐に亘り、マスコミからIT業界、

 

仕事前の神楽坂界隈のバーテンダーまで

 

神楽坂の遊び方を知るお客様が集まります。

 

バー初心者の方や女性お一人のお客様でも

 

MIKIさんやワンさんがきっと

 

優しい笑顔で迎えてくれることでしょう。

 

※大変残念ながらMIKIさんはご退職なさいました。