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№82     

「 バー忍(しのぶ) 」


 

「本街」

 

明治14年創業の書店「三省堂」や

 

大正2年創業の書店「岩波書店」をはじめ

 

新書から古書までありとあらゆる書籍が

 

集まる私の大好きな本の街「神保町」。

 

特に古書店は約160ものお店を擁し

 

江戸時代の古典書なども入手可能である。

 

この町名は江戸時代の幕臣「神保長治」が

 

幕府より邸地を賜ったことに由来するそうだ。

 

千代田史によると明治大学などを中心に

 

神田に所在する私立大学の拡張や

 

中間階級、知識階級の大量創出と

 

その上に位置する集英社等の出版界発展が

 

この街を「本の街」にする背景となった

 

ということが詳しく記されている。

 

この街の老舗喫茶店、昭和30年開店の

 

多くの文士達もこよなく愛した名店

 

「さぼうる」などは昔も今も変わらず

 

本の虫の皆さんがゆっくりと読書しながら

 

コーヒーや日中からウイスキーを愉しむ

 

読書好きの姿を見ることが出来る。

 

この神保町の割と目立たぬ一角に

 

ひっそりと灯りをともすお店がある。

 

神保町一丁目「バー忍」。 

 

 


「探偵」

 

古めかしいバードアを静かに押すと

 

わずか8席ほどの狭い店内には

 

身なりの大変整ったお一人の紳士と

 

気丈夫な語り口のオーナーママが

 

和気藹々と世間話をなさっている。

 

お二人に軽く挨拶をしストゥールへ座ると

 

「今日は寒かっただろう。」とおっしゃる

 

そのお客さんは高名な大学教授の方である。

 

また作家や画家、写真家や代議士といった

 

お客様も数多くこの止まり木に集まる。

 

もちろん皆さん偉ぶるようなことは無く

 

日頃の「肩書き」という上着は脱ぎ置き

 

ゆっくりとお酒と会話を愉しむのである。

 

お店は昭和34~35年頃に開店したそうで

 

現ママは東京オリンピック開催の年である

 

昭和39年に前オーナーを引き継ぎ今に至る。

 

カウンターでは毎日その頃からお店へ通う

 

お客さん達が文化や経済、政治の話から

 

昭和30年代の神保町界隈の懐古談まで

 

大変幅広くそして私などには大変興味深い

 

会話が旨いお酒とともに振る舞われる。

 

ママはかつて神保町に5店舗ほどのお店を

 

経営なさっていたこともあるそうだ。

 

昔は現在終売となったキリンウイスキー「バー」や

 

現在もファンの多い「ニッカピュアモルト」が売れ筋だったという。

 

アテ無しに切り子でホワイト・ホースの

 

オン・ザ・ロックを飲んでいると

 

「これ食べなさいよ。」と先ほどの教授が

 

ご自分の頼んだ品川巻きの皿を

 

私にわざわざ手渡してくれたのでお礼を言う。

 

そんなやりとりがあるのがバーの愉しみの一つでもある。

 

 


「 バー忍(しのぶ) 」

 

東京都千代田区神田神保町1-22

 

03-3293-7898

 

最寄り駅

 

地下鉄神保町駅より徒歩4分

 

お店一口メモ・・・

 

都内でも少なくなってきた昭和30年代開店のバーは

 

Barファンなら一度は足を運んでおきたいですね。

 

カクテルはハイボール程度のみ。

 

ウイスキーやジン、ウォッカ、ワイン

 

そしてビールなど450円~となっており

 

決して高いお店ではありません。

 

品川巻きやチーズ、サラミ、あたりめなどオツマミは

 

オール600円となっています

 

一見さんですと入りにくい雰囲気がありますが

 

ママもお客さんも気さくな方ばかりです。

 

※大変残念ながらご閉店なさいました。