Compass

№78     

「 BAR WOODY 」


 

「吉祥」

 

梅雨である。

 

北の都:札幌生まれの私にとっては

 

東京暮らしがいくら長くとも

 

この時期だけは決して慣れる事が無い。

 

この憂鬱な気持ちを切に分かって頂けるであろう

 

私と同郷札幌ご出身のマスターがいるお店へ

 

爽快なジントニックを求め「吉祥寺」へ足を運ぶ。

 

「吉祥寺」の由来はその名から連想されるが如く

 

吉祥寺という寺の名から来ている。

 

千代田区神田駿河台付近にあった同寺が

 

1657年の振袖大火で火災にあった際に

 

その門前町に住んでいたために

 

家を焼かれてしまった町人・百姓に対して

 

幕府が武蔵野の土地を新墾地として提供し

 

そこに移り住んだ民達が自分たちの愛する

 

「吉祥寺」の名をその地に付けたとされている。

 

奇しくも現在私の勤務先も神田駿河台ということもあり

 

ついつい勝手に吉祥寺に親近感を持ってしまう。

 

とあるビルの階段を上り、バードアを静かに空けると

 

左手のバーカウンター内に清潔感ある白ベスト、

 

ホームベース型の輪郭にキレイな顎髭が蓄えられ

 

いかにも優しそうな眼(まなこ)をなさった

 

40歳にして十分に貫禄を備えたオーナーバーテンダー

 

田中雅博氏がようこそと迎えてくれる。

 

氏が立つ横の壁には札幌ススキノの

 

名バー「バーやまざき」の山崎達郎マスターが

 

お得意としている3枚の「横顔」の切り絵と

 

「バーやまざき」のコースターが額に飾られており

 

何だかススキノに呑みにきたかのようでつい嬉しくなる。

 

大のブルース好きである田中さんのアナログ盤を

 

ゆっくりと聴きながらジントニックを飲みつつ

 

ジュニア・ウェルズの最後の来日となった

 

ブルーノート東京ライヴの思い出など回想していると

 

ノドを湿らせたのだが外が蒸し暑かったせいか

 

もう一杯サッパリしたドリンクを続けたい。

 

「ふるさん、私オススメの一杯いかがですか?」と

 

自信みなぎる笑顔の田中さんにそれを所望し

 

どうぞと差し出されたのはやや大きめのタンブラーに

 

タップリ注がれたオールドスタイルのソルティドッグ。

 

船の甲板員を指す英国発のカクテル誕生当時には

 

ウオツカではなくジンをベースとし

 

グラスの縁にソルト(塩)を付着させる

 

「スノースタイル」ではなく直接塩を調合したという。

 

大変シャープでクリアな味に仕上がっており

 

私の何か嫌なモヤモヤ感もすっかりと払拭された。

 

 


「五月雨」

 

田中さんは20代の頃サラリーマンをご経験したが

 

ハードワークのため脱サラしバーテンダーを

 

次のご職業としてご自身のお店を持つに至ったが、

 

門前仲町のバー「Fun Night Cafe」での

 

バーテンダー修業時代についに

 

「よし、雇われではなく自分のお店を持とう。」と

 

ご決心なさったそうである。

 

その時期に何と私も佳く通う門仲の名物居酒屋、

 

安くて美味いがホールカウンター内に立つ

 

おばちゃんがなかなか曲者の「魚三酒場」に

 

足をお運びになったことがあるということで

 

おばちゃんに追い返されたお客さんの話など

 

二人で笑いながらその話で盛り上がる。

 

また、BAR WOODYのとあるお客様が

 

仕事のためとある地方都市へ行くので

 

ちょっと立ち寄ることが出来るバーを

 

ぜひ紹介してほしいというご要望に

 

私のWEBページに掲載の一店を紹介したところ

 

大変喜んでくれたとのお話をお聞きし、

 

やっぱやってて佳かったなあとしみじみしたりする。

 

そんなんで今宵も夜が更けそろそろ締めの一杯の時間。

 

最後はウィスキーで余韻を残したく

 

アイラでラスティネールをオーダーすると

 

「和製ラスティネールなんてどうですか?」

 

とまたもや田中さんが自信を漲らせた。

 

登場したのはオリジナルの「五月雨の夜」。

 

飲み口はラスティネールをもう少し

 

すっきり甘くしたような味わいで

 

大変スムーズに喉を通っていくドリンクだ。

 

中身はというとサントリー「響」と「和三盆のシロップ」を

 

絶妙な配分で調合したシンプルな純和風?!カクテル。

 

ウィスキー好きな私には堪らない一杯である。

 

「温かい木のような温もりあるお店」を店名とした

 

BAR WOODYのオーナー田中さんは

 

お酒への探求心深い「情熱の木」であることを

 

実感させられる佳き一日となった。

 

 

 


「 BAR WOODY 」

 

東京都武蔵野市吉祥寺本町1-10-8

 

山崎ビル3F

 

0422-22-0860

 

http://www.bar-woody.com/

 

最寄り駅

 

吉祥寺駅より徒歩10分

 

お店一口メモ・・・

 

吉祥寺に行くならぜひとも立ち寄りたい止まり木です。

 

田中マスターの優しく安心感あるお顔は

 

ハッキリ言って癒し系でございます。

 

男女ともにお独りのお客さんも多く、

 

バー初心者の方や女性お一人でも

 

ゆっくりと安心してお酒を愉しめるお店です。

 

また、ブルース好きな方にもぜひ足を運んで頂き、

 

田中さんと大好きな音楽の話で

 

盛り上がって頂きたいと思います。