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№77     

「神谷バー」


 

「食堂」

 

神谷バーは『食堂酒場』である。

 

バーファンなら誰もが知るであろう

 

浅草の老舗であるこのバーは

 

明治45年に日本で初めて「バー」を名乗った

 

大変由緒ある「庶民のレストランバー」だ。

 

地下鉄浅草駅地上出入口前のメインストリート

 

「雷門通り」を吾妻橋方面へと向かう。

 

橋向こうに見えるアサヒビール本社ビル屋上には

 

日本人にも馴染みある中国の物語「西遊記」で

 

主人公:孫悟空が自由自在に乗りこなす

 

筋斗雲のようなオブジェが一際目立つ。

 

その手前丁度馬道通りとの交差点角に

 

目指す神谷バーのガラス戸が開扉されており

 

店内の活気溢れる様子がガラス越しに

 

外からも窺い知ることが出来る。

 

入店と同時にすぐ眼前には大きなショーケース。

 

煮込みや七面鳥のたたき、ビーフシチューといった

 

神谷バーでお馴染みメニューのサンプル達が

 

ショーケース内にギッシリと詰まっており

 

今日はどれにしようかとついつい目移りしてしまう。

 

中には「海老の電気揚げ(710円)」なんてメニューもある。

 

右手には食券売り場があり

 

このバーではまず食券を購入しなければならない。

 

食券を求めるお客さん達が並んでいる最後尾に加わり

 

手早く機械へお札を挿入しお目当てのボタンを押す。

 

購入した数枚の食券を握りしめながら

 

素早く数少ない空席を見つけ出し

 

隣の先客の方に同座をお願いしつつ

 

ウェイターに食券を手渡す。

 

もちろんオーダーしたドリンクはお店の顔とも言うべき

 

かの有名な『電氣ブラン』だ。

 

 


「電氣」

 

お酒好きな方ならその名を一度くらいは

 

きっと耳にしたことがあると思うが

 

『電氣ブラン』という飲み物は

 

大正時代の実業家でフランスから日本に

 

ワインの製造技術を初めて導入したとされる大正のワイン王

 

神谷博兵衛氏が明治15年に作ったアルコール飲料であり

 

電氣が大変珍しいものであった明治時代、

 

とかくハイカラなものには「電氣○○○」などと

 

頭に「電氣」の二文字を挿入する風潮に

 

肖ったものであったと思われる。

 

またアルコール度数が当時で45度と

 

大変強いお酒であることから

 

「呑むと身体に電氣が走るようなお酒」

 

というイメージも上手く結びつき

 

その名が広く広まることとなったお酒だそうだ。

 

このお酒が最初に売り出されたお店が

 

当時神谷博兵衛が経営していた「神谷バー」であり

 

その中身はブランデー、ジン、ドライベルモット、

 

ホワイトキュラソー、ワイン等がブレンドされ、

 

製法そのものは秘密とされている。

 

呑み口は、舌触り、のど越しともに

 

ややドライシェリー酒にも似た感じがする。

 

店奥のカウンター上には電氣ブラン専用の

 

グラスが80個ぐらいであろうか

 

縦横にずらっとならべられており、

 

2、3人のバーテンダーがひっきりなしに

 

グラスへ電氣ブランの液体を注いでいる。

 

そんな姿を眺めていると早速私の手元へも

 

電氣ブランが2杯運ばれてくる。

 

チェイサーはもちろんあらかじめオーダーした

 

生ビールの大ジョッキ。

 

これがこのお店常連のルールなのである。

 

ツマミも数品頼めば手元のテーブルは一杯になり

 

となりのお客さんとお互いに世間話でもしながら

 

上手くスペースを譲り合い打ち解けていくところなどは

 

さながら門前仲町や月島あたりの大衆酒場だ。

 

どこかゆるりと時間が流れていく。

 

お客さんの中には山高帽、ロイド眼鏡に

 

背広姿なんていう粋なお客さんもお見かけする。

 

気分は明治大正というところだろうか。

 

 

 


「神谷バー」

 

東京都台東区浅草1-1-1

 

03-3841-5400

 

http://www.kamiya-bar.com/

 

最寄り駅

 

地下鉄銀座線浅草駅3番出口より徒歩1分

 

お店一口メモ・・・

 

浅草へ足を運ぶ機会があれば

 

浅草寺だけではなく是非とも立ち寄りたい

 

レトロな雰囲気タップリの大衆バーです。

 

フードメニューも大変豊富ですので

 

休日のお昼にふらりと立ち寄るなんてのも

 

よろしいのではないかと存じます。

 

所謂オーセンティックなバーのように

 

静かに呑むという雰囲気ではなく

 

わいわいガヤガヤという中で呑む大衆的なバーです。