Ｃｏｍｐａｓｓ
№６６
「Ｂａｒ Ｃａｓｋ」
「車坂」
東京：城東地区の一大歓楽街「上野」。
上野というと地方から観光でお越しの方々も多く、
美術館や博物館、動物園や不忍池などを
日差し暖かな休日あたりに
ゆっくりと時間をかけながら巡りたい
大変文化的な街であるが、
夜にもなるとその姿は一変し
仲町を中心としたネオン街は夜明けまで華やぎ
不夜城の様相を呈す街となる。
そんな雑踏を避けて静かに一人呑もうと
人気の少ない東上野・車坂通りを歩く。
先程までのざわめきがウソのような
通りのとあるビルにある一軒の隠れ家的バーへ。
「Ｂａｒ Ｃａｓｋ」。
お店へ続く階段を静かに登り
左手のバードアをおもむろに開けると
こぢんまりとした店内に７席のストゥール。
カウンター内にはなかなかの長身で
眼鏡にキリリとしまったアゴが印象的な
オーナーバーテンダーの益子弘行氏が
落ち着いた笑顔で迎えてくれる。
「好きなお酒は『特にこれだ』と
いう決まったものはありませんが、
呑みたいと思ったときに手を伸ばすボトルが
やっぱりその瞬間に一番好きなお酒です。」
と言う益子さんは前述の仲町のバーなどで修行し、
平成１４年１０月に念願のお店をオープン。
まだそれほど年輪を重ねていない店内は
新しいバー特有の清涼感を感じる。
店名は割とアバウトに名付けましたということだが
その名から確かなベクトルを感じるのは
恐らくわたしだけではないであろう。
「牽引」
バックバーにはシングルモルトウィスキーを中心とし、
ウィスキー、バーボン、ブランデー他
ワインやリキュール類などもずらり取り揃っており
なかなかお目にかかれないレアボトルなどは
お客様に液体を提供した後に
瓶内空気をヴァキュバンで真空状態にすることで
酸化を防ぐという徹底したボトル管理。
ブランデー等はグラスをライターの火で炙り
グラスを少しあたため香りを十分に引き出す工夫。
お酒を愛するからこそ細かな気配りを
決して忘れない益子さんのスタンスは
バーテンダーとしての資質に富む。
比較的ライトなウィスキーの代表格である
アイリッシュウィスキーは
数あるウィスキーの中でも益子さんが
手を伸ばす機会が割と多い銘柄。
「これは同銘柄のアイリッシュウィスキー４０度ですが。」と
眼前にひとなめグラス２客をならべ
某有名アイリッシュウィスキーを注いでくれる。
一目見て色の違いが分かりつつも
舌、そしてノドでゆっくり感触を確かめながら試飲する。
まろやかな中にも一方は割と平坦的な味わいで
際立った特徴がそれほど感じられない呑み口、
もう一方はまろやかさとともに口の中、
そして舌の上でふわっと味わいが広がり、
それと同時に香ばしいウッド香が鼻孔を通過する
ボディーの確かな強さを感じる味わいである。
「十数年で同価格・同銘柄がここまで変わるとは。」
私と益子さん二人はほぼ同時に落胆する。
日本酒や焼酎は昨今、こだわりと個性ある製品が
次々と登場し呑み手の舌をこよなく満足させている。
ウィスキーをはじめ洋酒全般も確かに同様に
こだわりを持ち他にはない輝きを放つ逸品も多いが
どうもそれとは逆に採算性や合理性を追ったばかりに
本来持つ素晴らしい味が色々と調整されてしまい
かつての輝きを自ずから無くしてしまっているお酒も
見受けられるのは否めない状況と考える。
ブランド志向が強い我が国では
お酒の名前や年代が実際の味よりも重視され
本物と分からずに満足するユーザーも
少なからずいるという話は
多くの本格バーのカウンターで耳にする
大変残念なお話であり、
そういったユーザーの皆さんを
益子さんをはじめとする豊富で確かな知識を持った
バーテンダーの方々がナビゲーターとなり
日本の洋酒文化を牽引して頂けることを
願って止むことがない一夜となった。。。
「Ｂａｒ Ｃａｓｋ」
東京都台東区東上野３－１３－３
アカツキビル２Ｆ
０３-３８３２-８７５５
最寄り駅
ＪＲ上野駅広小路口より徒歩４分
地下鉄日比谷線上野駅２番出口より徒歩３分
お店一口メモ・・・
上野は本格的バーが
街の規模の割には少ないのですが
その中にあってこれからが大変楽しみな
本格的バーの一つです。
モルトなどは数多くと言うよりは
確かな品物を厳選し数を絞ってご提供なさってます。
上野という土地柄、そして７席という席数も
またアットホームなお店作りに一役買っています。
出来れば一人で足を運びたいお店です。
