Compass

№63     

「舶来酒場らんぷ」


 

「開港」

 

英国情緒溢れる港町:横浜。

 

安政6年(1859)の「横濱港」開港によって

 

日本の中でもいち早く文明開化の波が

 

市中にどっと押し寄せる中、

 

著名な英国人設計者:R.H.ブラントンをはじめ

 

大変多くの外国人技術者が

 

近代的な「横濱」の街づくりに人力を尽くし、

 

開港して150年以上も経過した今でも

 

偉大な彼らの遺産である建造物達が

 

街の各所で我々の心を魅了する。

 

そんな横浜で異国風情を感じながら

 

人々が呑み交わす歓楽街と言えば

 

ます「関内」の地が挙げられるであろう。

 

「関内」の地名は開港当時居留地に指定され

 

関所が置かれたことが由来だという。

 

関門が、文久元年(1862)に吉田町側に

 

移設されて以来、馬車道側を「関内」、

 

伊勢佐木町側を「関外」と

 

呼称されるようになったそうだ。

 

関内のメインストリート「馬車道通り」といえば

 

ガス灯十数基が日本で初めて点灯されたことで有名だが、

 

洋式照明器具の中で横浜のバーに

 

似つかわしいものは何かと問われると

 

私はまず「ランプ」を思い浮かべる。

 

ランプは江戸末期に輸入され

 

明治時代に一般的に普及したものであるが

 

恐らく私の想像では当時の横濱には

 

ランプ、当時で言うところの「らんぷ」が

 

港町の酒場のカウンターに座る

 

男達のお酒のたしなみを

 

きっと美しく照らしたに違いない。

 

そんな「らんぷ」を店名になさっている

 

素敵なバーが馬車道通り側に今日も明かりを灯す。

 

関内の本格バー「舶来酒場らんぷ」。

 

 


「口髭」

 

通りに面したガラス窓付きの木製バードアを開けると

 

正面に向かってストレートに

 

美しい木目のカウンターが伸びる。

 

止まり木の上にはランプの明かりが

 

我々を包み込むように温かく灯っている。

 

バックバーの右端にはトリスのCMでおなじみの

 

イラストレーター柳沢良平さんが描いた名キャラクター

 

「アンクルトリス」の置き人形がズラッと飾られているところなど

 

呑み手にとってはどこかニクイ味を出している。

 

このカウンターに立つのは

 

オーナーバーテンダーの金子昌司氏。

 

私と同じく直木賞作家の山口瞳氏の作品を

 

こよなく愛す口ひげが凛々しいお方で、

 

先ほどのアンクルトリスのコレクションも

 

このことからうなずける。御歳40歳。

 

バックバーには1970年代のアベラワー・スクウェアボトルや

 

グレンモーレンジー・ソーテルヌ・ウッド・フィニッシュをはじめ、

 

約100種類のモルトを中心に様々な洋酒が揃う。

 

季節のフルーツを使用したカクテルを

 

前向きにオススメしたいという金子さん。

 

今日は西洋ナシのいいものがあるということで

 

久々にフルーツ・マティーニをオーダーする。

 

擂り粉木で時間をかけて丁寧に果実を潰し

 

丹念にシェークをほどこした後、

 

やや大きめのショートカクテルグラスに

 

処方されたマティーニは秋にはピッタリの

 

どこか甘く切ない味のするカクテルだ。

 

これからの寒い時期にはアリッシュコーヒーや

 

自家製バターで仕上げて頂くホットバタード・ラムも

 

ぜひともオーダーしたいカクテルである。

 

最近少々お体の調子を崩されてお店に立つ機会が少ないが

 

フードに関しては金子さんの奥様が

 

お客様への愛情タップリに

 

大変美味しいお料理を提供してくださるのも注目。

 

お二人はスコットランドで御挙式なさったという

 

大変素敵なご経験を持つ仲睦まじいご夫婦である。

 

どこか落ち着いた古き佳い英国情緒を感じるこのお店は

 

単に「横濱」という土地柄だけではなく

 

ご夫妻の想い出やお気持ちが創り上げているのだろう。

 

 


「舶来酒場らんぷ」

 

横浜市中区住吉町5-61

 

住五ビル 1F

 

045-641-8901

 

最寄り駅

 

JR関内駅より徒歩7分

 

横浜市営地下鉄関内駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

まさに「大人の止まり木」の名に

 

ふさわしいどこか懐かしい香りのする

 

大変素敵な店構えです。

 

いつも大変丁寧な接客をなさる

 

金子さんのお作りになるカクテルは

 

女性にも大変好評だとお聞きしております。

 

1ドリンク700円~と標準的な価格。

 

ルビーポートベースのカクテルに

 

巨峰を数粒飾ったオリジナルカクテル

 

「吟遊詩人」などもオススメです。

 

文中では奥様がフードを手がけておりますが

 

現在では専属シェフが腕をふるっておりまして

 

ロールキャベツやカツサンドなど

 

とても美味しい料理達が愉しめます。