Ｃｏｍｐａｓｓ
№６１
「ＣＨＡＴ ＲＯＯＭ」
「道草」
神楽坂から一歩脇の石畳路地をぷらっと歩く。
毘沙門天を構える表通りの賑やかさとは対照的に、
つい足を運びたくなる名店「伊勢藤」をはじめ
酒亭やレストランが静けさの中で明かりを灯し
それらお店に訪れるお客さん達は一様に
この界隈に流れる独特でゆったりとした時間の
最も佳い愉しみ方を知る方々ばかりである。
現在は「プチ・パリ」などとも呼ばれ
お洒落でイケるフレンチレストランも多いが、
東の祇園とも言うべきかつては花柳界だった匂いも
どことなく残る神楽坂の路地裏。
そんな神楽坂脇路地の中で
先程申し上げた静寂な路地とはひと味違う
エネルギッシュで個性的なお店が集まった
大変賑やかな路地がある。
神楽坂下を脇に入る「神楽小路」。
小路の少し先で「みちくさ横町」という
別小路と分岐するこの小路には
まさに道草したくなるお店ばかりが
左右に軒を連ね常連さん達で賑わっている。
そのちょうど分岐部角あたりに
周りの飲食店の入り口とは明らかに違い、
トレリスに溢れる花々がどこかホッとさせてくれる
空間演出がほどこされた一店がある。
その横のガラス窓付きのバードア窓から
静かにちょっと中を覗いてみると
カウンター７席程度のやや小さな店内に
バーとしては割と明るい柔らかな照明の下で
落ち着きあるヨモギ色をした逆Ｌ字型の
カウンター内に立つ小柄で優しい笑顔の女性が
その止まり木にかおを揃えるお客さん達と
楽しそうに会話なさっている様子が分かる。
店名は「CHAT ROOM」。
名の通り気さくにおしゃべりしたい
アットホームな雰囲気のバーだ。
「師塊」
この止まり木を切り盛る女性「マチリン」さんは
元某航空会社で内勤なさったご経験をお持ちであり、
また語学が大変ご堪能でいらっしゃることから
フランスの某高級コニャック製造会社の
通訳経験などもある海外との接点も豊富な女性である。
バーテンダーのご経験は一度も無かったが
知人の方からこの場所を貸し出すので
お店などをやってみないかとの話に応じ、
バーをやってみようと思い立ったそうだ。
バーテンダーとしての専門的な知識は
決して深くはなくともマチリンさんには
確かな味覚・嗅覚と「聞き上手」という
バーカウンターに立つ際に必須とされるであろうモノを
しっかりと持ち合わせていらっしゃる。
店内はいわゆる本格バーとは異なる
スナック的な砕けた空気の温度を持つ。
ストゥールに腰掛けプリマスジンのジン・フィズを呑みながら
「ちょっとお腹減ってない？」と出された
ナチュラルチーズ盛り合わせ。
１ヶ月に一度ベルトーのシャブリで
ウオッシュを施したチーズ等、
毎日２～３種類は用意するというチーズは
量も多くそして何よりリーズナブルである。
こんな美味しいチーズ達は
ジンばかりではなく焼酎あたりとも合わせたい
なんて欲を思いながらバックバーへ目を遣ると
「蔵の師魂」「里の曙（マチリンさん特製シソ漬け）」
「春雨」といった名焼酎・泡盛なども
きっちりと置かれていたりする。
「世界一のウィスキー「余市」のロックなんかも
この肴にはイイ感じなんだろうなあ。」
など思いつつ手元の酒はいつの間にかいつもの
「アードベックＴＥＮ」になってたりする。
その隣で液体が金褐色に輝いている店主オススメの
「ボウモア・マリナー１５年」もピート香豊かで
コクと辛さを持つ余韻もあるグッドボトルである。
ＢＧＭに流れるピーターソンのジャズピアノに
耳を澄ませながら今宵の神楽坂の夜も更けていく。
「ＣＨＡＴ ＲＯＯＭ」
東京都新宿区神楽坂１－１４
０３－３２２６－６５５９
最寄り駅
ＪＲ・地下鉄飯田橋駅より徒歩１分
お店一口メモ・・・
神楽坂のバー」と聞くと
どこか「高い」というイメージもあるが
こちらマチリンさんのお店は
お通し（チャージ）１，０００円、
ドリンク類５００円～と大変リーズナブル。
お客様は常連の方々が多いが
一見さんの方や女性お一人の方も
大変温かく迎えてくれる
アットホームな雰囲気のお店です。
上記のＷＥＢページ中「神楽坂バー日記」なども
読んでみるとお店の雰囲気が
少し伝わってくるかも知れません。
行くなら是非一人で行きたいお店です。
※大変残念ながらご閉店なさいました。
