Compass

№56     

サントリーバー「まいまいつぶろ」


 

「トリス」

 

私の勤務先のある御茶ノ水に

 

会社の先輩達と年間を通して最も足繁く通う

 

いわば「ホームグランド」と言うべき

 

とっておきの隠れ家的バーがある。

 

JR聖橋改札口からすぐ、昭和33年開店の老舗

 

サントリーバー「まいまいつぶろ」。

 

駅前通に面するお店の入り口はとても小さく

 

お店へ向かう際には注意していないと

 

初めての方などはまずほとんど

 

その扉を通り過ぎてしまうことであろう。

 

バードアは営業時間は夏場開けっ放しになっており

 

薄暗い照明のカウンターはいつもお客さんで

 

賑わう様子が店外の歩道からも伺える。

 

このお店はいわゆる「トリスバー」という奴である。

 

「トリス」をご存じない方もいらっしゃるかもしれないが

 

第二次大戦後の日本の復興期に大ブームとなった

 

寿屋、現サントリー社の安価ウィスキーが「トリス」であり

 

「アンクルトリス」という名キャラクターとともに

 

私が大好きであり尊敬する作家、開高 健氏が

 

「自分に優しく生きたいナ」というコピーでそのブームの

 

火付け役となったことで有名になったお酒である。

 

今では愛飲するこの「トリス」

 

なかなかどこのバーでもお目にかかれなくなってしまったが

 

このお店では一杯140円。

 

銀座あたりの高級バーだと

 

モルトウイスキー一杯1,400円くらいは下らないが

 

このお店では10杯呑んでも1,400円なのである。

 

つまみも「チーズ」200円、「いかくん(さきいか)」200円と

 

驚くほどリーズナブルであることがお分かりであろう。

 

 


「寡黙」

 

お客さんの中心は戦後から高度経済成長期を

 

一心に支えてきた企業戦士であり

 

40年近くの年月が染みこむ止まり木で

 

トリスを飲む熟年の皆さんの顔が

 

当時ひたすら「ガムシャラ」に仕事の一線で戦った後

 

仲間とこのバーで1日の疲れを癒しほっとした頃の

 

お顔にきっと戻っていらっしゃるのだろうと

 

思っているのは私だけなのだろうか。

 

御年70も半ばの宮本修二マスターは

 

とにかく寡黙な方であり

 

手を動かしている最中にオーダーしようとしても

 

全く振り向いてもくれない。

 

マスターが手の空いた機を一瞬たりとも逃さず

 

「マスター、お願いします。」と声を掛け

 

さっとトリハイ(トリスハイボール)を注文するのが

 

このお店の暗黙のルールである。

 

この時マスターは黙って頷くだけであるが

 

実に手際よくお酒を出してくれる。

 

このお店は実は2Fにも6~7つのテーブル席があり

 

ここへ通ずるらせん階段がカタツムリの殻に

 

似ていることから店名を「まいまいつぶろ」としたそうだが

 

1F、2Fともにスタッフは何とマスターお一人であり

 

その接客には無駄な動きがほとんど無く

 

思わず尊敬させられてしまう。

 

寡黙な中にもお客さんを見つめるその目の奥は

 

常連さんや一見さんの区別無く

 

どこか温かいものを感じる。

 

今宵もトリスとチーズとサラミを頂きながら

 

日頃溜まったストレスの解消に

 

「まいまいつぶろ」で先輩達と一杯やりにいこう。

 

 


「まいまいつぶろ」

 

東京都千代田区神田駿河台4-5

 

03-3291-8464

 

最寄り駅

 

JR御茶ノ水駅聖橋口出口より徒歩1分

 

地下鉄新御茶ノ水駅より徒歩1分

 

お店一口メモ・・・

 

多いときには私も週に3~4回は

 

お邪魔するお店です。

 

女性だけでの入店は

 

少々厳しいかもしれないお店です。

 

2F席に上がる場合は

 

あらかじめ2~3杯ドリンクを

 

頼んでおいた方が

 

飲物が途切れることなく

 

ゆったりとくつろげると思います。

 

※大変残念ながらご閉店なさいました。