Compass
№52
「 Bar. 」
「文士」
「バーテンダーには文士の資質がある。」
というのは私が常日頃思うことの一つだ。
なぜかと言えば
第一にカクテルを創作することと
文章を生み出すこととは
どこかで共通するポイントを持つ感がある。
両者とも自分の「ひらめき・思いつき」を
それぞれ形として表現させるからだ。
一方は書き物で、もう一方はカクテルで。
第二には「物語り」というものと
常に接しているということである。
文士の方は言うまでもない話だが、
バーテンダーはお客様に相対する際に
「お酒」というものを媒体として
多くのお客様の人生経験やドラマ
つまり人それぞれの「物語」を
ある時は聞き手として、あるいは話し手として
毎日接することになるからである。
よく作家の方々が馴染みのバーで
息抜きの一時を過ごすことがある。
もちろん黙って静かにお酒を
お呑みになる方もいらっしゃるが
バーテンダーと何かしら会話を
取り交わしていないはずがない。
なぜ作家の方々がそのようなバーに集うかといえば
もちろん酒好きだからというのは言うまでも無いが
バーテンダーにもどこか自分たち作家と同じような
感性や価値観を見い出していることも
その理由の一つのような気がしている。
そんな文士を思わせるバーテンダーが
六本木:芋洗坂のとあるビル1Fで
ひっそりとお店を構える。
「昔気」
六本木通り方面から芋洗坂を下り
雑居ビル1Fの最奥にある
店名も書かれていないツヤある木製のバードアを開けると
やや明かりを落とした薄暗い店内には
多種のスタンドライト達のやわらかな光に照らされ
美しく輝き放つ逆L字型に伸びるバーカウンター内に
キリリとした清潔感溢れるバーテンダーが立つ。
「Bar.」亭主:木本伸二氏。
NBA(日本バーテンダー協会)六本木支部長として
バーテンダー業界の一層の発展に御尽力なさる一方で
「自己満足を発散するためだけのものですので
暇つぶしにお読み下さい」とお話し下さるのだが、
「Bar.」の雰囲気がたっぷりと伝わってくる
オリジナルのホームページ上で
木本さんが長年書き綴った
バーを舞台にした小説 「 再会 」 や
カクテルを題材としたオリジナル動画を発信なさっている。
バー、そしてジャズをこよなく愛す私は
最初じっくりと時間をかけて読ませて頂こうと思ったが
ついついあっという間に読破してしまった。
実際お店に置いてある昔のダイヤル式黒電話、
壁に掛かられた30年前の東京の風景写真、
私がお伺いした際には故障なさっていたが
普段はジャズを中心にアナログプレイヤーが回転する。
どこか懐かしい情感に満ちた空気。
その中でテキパキと仕事をこなし、
お客様との会話も実に丁寧な木本さんが作る
美しい銀色のショートカクテルグラスに注がれた
マティーニもどことなくセピア色に見えるのは
それもきっと木本さんのストーリーなのだろう。
店名「Bar.」の最後に付く「.(ピリオド)」は
「1日を締めくくる大切な時間を過ごしてほしい」
という思いが込められているそうである。
今夜も実に素敵な物語で一日を締めくることが出来た。
「 Bar. 」
東京都港区六本木5-9-14
第七ビレッヂビル 1F奥
03-3423-7577
http://homepage1.nifty.com/krt/bar/
最寄り駅
地下鉄六本木駅より徒歩8分
お店一口メモ・・・
芋洗坂の隠れ家的バーです。
初めての方はドアの前に立つと
開けることを躊躇してしまうかも知れませんが
どうか落ち着いてそのドアをゆっくり開けてみてください。
こぢんまりとした落ち着いた雰囲気の空間と
爽やかな木元さんの笑顔が
飛び込んでくるはずです。
女性お一人でも安心できる自然体でリラックスしながら
お酒を愉しみたいお店です。