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№38    

Bar「BARon」


 

「無瓶」

 

「是非行ってみたいBarがあるんだよね。」

 

久しぶりに会った銀座をよく知る女性の友人に

 

道案内されながら今夜は銀座7丁目へ向かう。

 

バブル経済崩壊後も確かに一時衰退はしたものの

 

「銀座」の持つ華やかさとその灯は

 

決して消えることがないということを

 

目の前の通りを行き交う高級外車や

 

一流クラブへご出勤なさる方々の姿を

 

しみじみ眺めながら改めて実感する。

 

程なくお店の前へ辿り着き

 

木製の外枠が美しく店内の様子が通りからでも

 

一目で分かるガラスバードアを開けると

 

まだお客様はお一人もおらず

 

店内にはピンとした緊張感漂う空気を感じることが出来る。

 

そして2枚板のカウンターの向こうに

 

どうもお客に厳しそうなバーテンダーが

 

私たちを出迎えてくれた。

 

オーナーバーテンダー谷口光一氏。

 

小柄なやせ型で小綺麗なひげを蓄え

 

キッチリとした白ワイシャツに黒のベストと

 

蝶ネクタイが似合う氏の背後には

 

木目の美しい開き吊棚は並んではいるが

 

ウィスキーやリキュールの姿も無く

 

数本のシングルモルトウィスキーの瓶が

 

置いてあるだけであり

 

その中には私の好きな銘柄のシングルモルトも

 

どうも見あたらないようである。

 

一瞬どうしようかと迷いながらも

 

「マスター、アードベグのカスクでオススメ物ありますか?」と

 

少し緊張しながらも訪ねると

 

それまで我々にも興味が無かった風のマスターが

 

「おや、これはウイスキー好きが来たな。」とばかりに

 

てきぱきとした動作でその手を

 

それまで私がやや興味を持ちながら見ていた

 

先ほどの開き吊棚の取っ手に手を伸ばして開き扉を開ける。

 

その扉の奥からはマニアも涎が出てきそうな

 

瓶詰め業者モノの年代物アードベグ達が

 

次から次へと登場し私の目前の止まり木上に並べられていく。

 

 


「樽出」

 

「ウチは樽出し、つまりカスクにこだわっております。」

 

谷口さんが私に最初に「お酒の話」として

 

開口なさった内容はこの言葉である。

 

ロックグラスの氷が溶けていくかのように

 

谷口さんの表情と話しぶりが柔らかくなっていく。

 

通常ウィスキーは穀物を発酵させて蒸留し

 

樽詰めによって熟成させ

 

瓶詰め前に濾過し冷却してから

 

瓶詰を行った物が市場に出回る。

 

しかしその樽から濾過、冷却をせず直接瓶詰めするものが

 

樽出しウィスキーであり同じ銘柄(ブランド)でも

 

使用した樽の木材の種類等によって

 

その味が複雑に変化を遂げているため

 

一層味の変化を楽しむ幅が広がるため

 

樽出しを好む飲み手やコレクターも多い。

 

ウィスキーを瓶詰め販売する海外の酒販業者の中には

 

このウィスキー、酒樽自体を生産者から購入し

 

自社で専門に取り扱う業者もあるくらいだ。

 

日本酒で言えばさしずめ樽出し生酒というところだろうか。

 

それらの貴重なウィスキーの品質管理を徹底すべく

 

谷口さんは敢えて吊り棚内にて

 

保管なさっているのである。

 

ちらりと覗いた吊り棚内には

 

スコッチ、バーボン、ブランデーを合わせて

 

800瓶以上はストックされていると思われる。

 

キチンと品質管理されたそれらの味は申し分なく

 

付け加えて谷口さんによるお酒の丁寧な説明は

 

一層美味しさを引き立てる。

 

「幻の桜」の井口オーナー他、

 

ウイスキーをはじめ色々とお世話になっている

 

バーテンダーは多いとは後で聞いた話である。

 

また一つ素晴らしいバーに出会った夜である。

 

 


Bar 「BARon」

 

東京都中央区銀座7-7-6

 

アスタープラザビル 1階

 

03-5568-0502

 

最寄り駅

 

地下鉄銀座駅B7出口より徒歩8分

 

お店一口メモ・・・

 

文中に記載の通りウィスキーファンには

 

本当にたまらないお店です。

 

カクテルもすべてフレッシュフルーツを使用し、

 

カクテルが大好きな方もご満足頂けると思います。

 

ウィスキー、カクテルともに一杯 1,000円前後から。

 

お酒の上級者、初心者にかかわらず

 

背伸びせずに自然体で愉しみたいお店です。