Ｃｏｍｐａｓｓ
№２９
ＰＵＢＬＩＣ ＢＡＲ 「ＡＢ．．Ｅ」
「耳澄」
東京下町のバーは
バーテンダーとお客さんとの距離が
他の地域のバーに比べ圧倒的に近い。
天神様のお膝元である下町聖地？！湯島ともなると
まるで馴染みの大衆酒場で
隣の常連客と膝をつき合わせて
世間話をするような親近感、いや、
密着感ある空気を感じずにはいられない。
雑然と飲食店が建ち並ぶ湯島の一角に
ひっそりとした店構えを見せる本格バー
ＰＵＢＬＩＣ ＢＡＲ「ＡＢ．．Ｅ」。
出看板を目印にやや狭い階段を下りると
その中腹にはバー風景の切り絵で有名な
成田一徹氏がお作りになった
「ＡＢ．．Ｅ」の切り絵が掲げられている。
店内の様子が伺える窓付きのバードアを
外からちらりと覗くと
お２人の常連のお客様がリラックスした雰囲気で
会話に花を咲かせているのが分かる。
バーとしては大変明るい店内に
奥にテーブル席は少しあるものの
カウンターのストゥールは僅か６席。
まるでホームバーカウンターのような
割とライトな木製カウンターを挟んで
非常に外のお客様と内のバーテンダーとの距離が近く、
密着した空気が良い意味で流れている。
内に立つオーナーバーテンダーの阿部勝康氏が
お酒一杯一杯をお客様に差し出すそのたびに
かけて下さる「お疲れ様でした。」の一声に
どれだけのお客様が一日の疲れを
癒されたことだろう。
阿部さんお手製のゆで卵にカレーを掛けたお通しも
小腹が空いた私にはなんとも嬉しい。
カウンター後のＪＢＬの大型スピーカーからは
私と同様にジャズ好きである阿部さんが
選曲なさった曲達が会話を遮らない
ギリギリの音量で流れており、
会話も忘れて思わず耳を澄まして
聴き入ってしまうのは
ジャズ好きの性分なのだろう。
壁に掛けられた一枚の絵。
この絵には間違いがありますがお気づきになりますか？
「値打」
ここ近年、若手バーテンダーを中心に
新規開店するバーが多いと聞くが、
景気の影響もあり、売り上げが伸びず
閉店するお店も同じくらい多い状況にある。
お店を訪れたとあるバーテンダーも
どうにかお店の個性を出して
売り上げを伸ばそうと
20～40年前物のアンティークな洋酒を
ネットオークション等でとにかく買い漁り、
元値の４倍も５倍にもなる価格で購入し、
お店で更にハクを付けて
お客様に提供しているそうだ。
阿部さんは大変このことに危惧する。
年代物の取り扱いは大変難しい。
銀座「幻の桜」のオーナー井口氏をはじめ
豊富で確かな知識を持ち、
それら酒瓶をまるで我が子のように
キチンとした形で保存なさっている
バーテンダーの方々も数多くいらっしゃる。
しかし、全ての方がそうとは限らない。
年代物は保存を余程キッチリしていないと
開封していないのにもかかわらず
蒸発が理由で中身の液体が目減りする。
この時点でアルコール度数も下がり、
その味わいも当然一気に落ちてしまう。
つまりお酒としての価値は上がるどころか
むしろ無くなってしまうと考えられる。
これを個人で楽しむなら別であるが
お店で商品としてハクをつけてお客様に提供するということは
バーテンダーという「お酒のプロ」として
すべき事では無いというのが
阿部さんのスタンスであり
私も大きな共感を覚える。
バーテンダーなら是非とも
カクテルで勝負して頂きたいというのが
バーテンダーという職種を愛する
阿部さんと私の共通意識だ。
ここまでお酒に情熱を注ぐ阿部さんが
作り上げるカクテルもこれまた
ピーンと一本筋が通った味わいであり、
下町気質が溢れてくる飲み口だ。
まさに下町の職人バーテンダーと呼ぶに
相応しい御仁である。
ＰＵＢＬＩＣ ＢＡＲ「ＡＢ．．Ｅ」
東京都文京区湯島３－４３－１１
０３-３８３１-５７５５
最寄り駅
地下鉄湯島駅より徒歩５分
お店一口メモ・・・
お通し３品（１，５００円）のうち
１品は阿部さんお手製の
日替わりお通しとなっており、
大変美味しい１品となっています。
カクテル１，０００円～、
ウィスキー９００円～。
女性のお一人のお客様もいらっしゃる
アットホームで粋なバーです。
