Compass№163

「Bar Tiziano」


  

「兎絵」

 

最近、新宿東口や歌舞伎町で飲むことも無くなったなあと

 

若者で溢れかえる新宿中央東口の繁華街を歩きながら思う。

 

かつては新宿三越であった大塚家具新宿ショールームの

 

すぐそばに少し入り口が分かりづらい雑居ビルがあり、

 

エレベーターを使って5Fのボタンを押す。しばらくして

 

ドアが開くと眼前には優しい光のスタンドランプが輝き、

 

その右横にあるプレートには店名とウサギが描かれている。

 

「Bar Tiziano」。

 

Tiziano=ティツィアーノはルネサンス期のイタリアの画家。

 

ヴェネツィア周辺の田園風景を好んで描き、その画中には

 

可愛いウサギを見つけることが出来る。フジテレビの

 

村松未央アナに似た元気な女性オーナーバーテンダーは

 

店名が覚えづらいと考え、お店のロゴにウサギを使用した。

 

そして自身をウサギに喩え、寂しいとすぐ死んでしまうから

 

たくさんのお客様が来てほしいと神様に願を掛けてるのだ。

 

バーカウンターは「Bar le Parrain」や「Bar Bruder 」など

 

新宿三丁目のグッドバーの流れをくむ古き西洋様式であり

 

BGMも同様に格調高いバロック系が流れているのが特徴。

 

元々はワインバーだったという店内の角に折れるようにして

 

窓付き扉が付く酒棚が設置されているのもなかなか珍しく、

 

中央の窓にはフレッシュフルーツがタップリと並べられて

 

いるのは彼女の強い希望。フルーツカクテルを得意とする

 

小柄な彼女がボストンシェイカーを華麗に使いこなす姿は

 

なかなか見応えがあり、実に手さばき良く提供してくれる。

 

そんな彼女は小笠原にも住んだことがあり、素晴らしい

 

フルーツ達に囲まれながら生活したこともあることから

 

その際の人脈を頼りに新鮮な果物を常に仕入れている。

 

一方でオールドボトルを中心にレアモルトが並ぶ右側の

 

酒棚は数量こそまだ少ないが彼女が厳選したボトル達が

 

飲み手の我々を誘惑する。モルトに関しては吉祥寺Visionや

 

六本木Ne Plus Ultraで経験を積み独立した彼女だけあり、

 

流行にとらわれない特徴あるヤツをお客様へ大変丁寧に

 

説明を加えて提供する女性バーテンダー、鎌田光代女史。 

 


「女将」

 

グレンリベットのゴッドファーザーの杯を傾けながら

 

鎌田さんが現在勉強中だというシガーに火を付けてもらう。

 

シガーの先生はNe Plus Ultraのオーナー古田浩二氏だと

 

いうだけあって、上級者から初心者までがスッと手を

 

手を伸ばせるラインナップが揃うのは流石と言えるだろう。

 

2010年6月にオープンしたばかりのバーには真新しい風と

 

幾分の緊張感を持った空気が存在しているが、鎌田さんの

 

明るく女性らしい接客と会話がそんな状況を和らげている。

 

私の個人的な意見だが、女性バーテンダーという存在は

 

たとえ年下であっても我々しがない飲み手男性陣にとって

 

「マザー」や「シスター」といった存在であり、無意識に

 

わざわざ叱られに行くM男君的な所があるのではないか。

 

TVドラマに登場する「小料理屋の若女将」の様な存在で

 

お客様を料理とお酒、そして会話でおもてなしした後に

 

「お客さん、今日はもう飲み過ぎよ。」と声を掛けてくれて

 

「いや、まだまだ。」と返すと「今日はもうお仕舞い。」と

 

ある時は優しく、またある時は厳しく叱ってくれるもんだ。

 

こちらは借りてきた猫の様におとなしく家路につくのだが

 

何となくそのやりとりが嬉しい男性は私だけでは無いはず。

 

鎌田さんもそんな女性の一人であり、飲み過ぎたお客様を

 

上手にお帰り頂く術が無ければ女性一人でお店は出来ない。

 

これから徐々にサイドディッシュにも力を入れたいと語る

 

鎌田さんは千葉県の外房にある魚の美味しい町で育ち、

 

近所の漁師さんからしばしば新鮮な金目鯛やアジ、サバを

 

御裾分けしてもらってたそうで、都内で働くようになって

 

「金目鯛ってこんなに高いの!?」と吃驚したそうであり、

 

その地元からの魚介仕入れルート確保に特段の問題は無い。

 

しかも彼女は銀座のレストランで勤務した経験を持ち、

 

お世話になったシェフにパテを作ってもらったりもして、

 

食材、調理という武器は既に揃っており、後はその方向を

 

いかに見出していくかが今後のポイントになるであろう。

 

将来が楽しみなバーが新宿に増えたことに今宵は乾杯だ。

 

 


「Bar Tiziano」

 

東京都新宿区新宿3-28-1

 

新宿コルネ坂詰ビル5F

 

03-6273-0514

 

http://ameblo.jp/bartiziano2010june/

 

最寄り駅

 

JR新宿駅中央東口から徒歩5分

 

地下鉄新宿三丁目駅から徒歩3分

 

お店一口メモ・・・

 

とっても可愛いウサギが目印の本格バーです。

 

新宿にありながら何と15時からオープンしており、

 

日曜日も灯りを点すというのですから有り難い限り。

 

また料金も大変リーズナブルで女性同士のお客さんも

 

気軽に立ち寄れるお店ではないかと思います。

 

『空間でお客様を直接的におもてなしすること』

 

『いままでの経験と知識からお客様にその時々で

 

合ったお飲み物やお食事をご提供させていただくこと』を

 

大切にしてお店を営んでいきたいという鎌田さんが

 

作り出すカクテルを是非一度味わって頂きたいと思います。