Compass№161

「Bar春日」


  

「芸妓」

 

昭和初期には新橋・祇園と並び日本三大花街と呼ばれ

 

大いに賑わったという新潟を代表する歓楽街「古町」。

 

その名残とも言うべき老舗料亭は現在でも営業しており

 

古き良き時代を彷彿とさせるノスタルジックな佇まいの

 

高級料亭が8番町、9番町を中心に今でも灯りを点し、

 

「古町芸妓」と呼ばれる芸妓衆が酒宴に赴くそうだが、

 

時代の変化とともにその粋な文化が急速に衰退している。

 

長引く不景気、後継者問題等、新潟に限らず厳しい状況は

 

特に地方を直撃している事を歓楽街の寂しさで実感する。

 

馴染みの寿司屋で新潟の味とも言えるノドグロの焼き物、

 

それにバイ貝とスルメイカの刺し身で日本酒をやった後、

 

握りを少しつまんでからやはり洋酒を愉しみたくなって

 

古町通りを歩いていると、料亭だと思い通り過ぎていた

 

1軒のお店の行灯のような和風看板がふと目に留まる。

 

「春日」と美しい筆字で書かれた看板に小さく「Bar」の

 

文字が書いてあるではないか。重厚な木製のバードアは

 

どこからどう見ても料亭の入口扉かと見間違ってしまう

 

風格あるものであり、バー好きの勘って奴が一瞬にして

 

「このバーはイイ」と私を誘ってくる。金属製の取っ手に

 

手をかけて静かに扉を開けると、和洋折衷の風がフッと

 

こちら側へ吹き抜けてくる。庭園のような美しい敷石が

 

インテリアとして部分的に通路へ敷き詰められており、

 

バックバー下部の明かり障子からは柔らかな光が漏れる。

 

まさに古町芸妓さんが「おいでやす」と迎えてくれても

 

違和感のない和テイストが配されたバーと言えよう。

 

このバーコンセプトには見覚えがあり、若きオーナーに

 

訪ねてみるとやはり予想通り銀座の「BAR保志」に

 

ご縁があって参考にしたということですぐにうち解け合う。

 

「バー業界は狭い」とはよく言う話だが、このあたりが

 

居酒屋界とは少し違ったBAR特有のアプローチだったり

 

するのかもしれないなと思いつつギムレットの飲み干す。

 

 


「謙信」

 

オーナーバーテンダーの吉田氏は、東京銀座の有名BAR

 

「リトルスミス」ご出身で「BAR保志」の保志雄一氏とも

 

ご一緒にバーカウンターに立ったご経験をお持ちであり、

 

リトルスミスや保志の仲間皆さんが一言を書きつづった

 

桐箱入りの特製シェイカーを実に嬉しそうに見せてくれた。

 

2009年4月にオープンし、着実にお客さんを増やしている。

 

「新潟は老舗バーが多いのですが、カクテルが中心であり、

 

モルトはまだまだお客さんに浸透していないのが現状です。」

 

と話す吉田さんだが、バックバーには新潟市内でほとんど

 

見かけないイチローズモルトなど個性的なモルトも準備し、

 

今後この地にもモルト旗を靡かせようという意気込みが

 

ジワリと伝わってくる。店名「春日」は越後の虎と呼ばれた

 

上杉謙信の出生地であり、居城であった「春日山城」に由来。

 

「謙信の春日山城のごとく北陸屈指のバーを目指しており、

 

店名にはこのネーミングしか思いつきませんでした。」という

 

吉田さんの言葉からはバーへの熱い思いがひしひしと感じる。

 

銀座で培った高い技術とサービスをこの越国でどのように

 

今後展開していくかがキーポイントであり、我々飲み手側も

 

楽しみにしているところである。銀座リトルスミスと言えば

 

カクテルにも定評があるお店であるが、もちろんここ春日も

 

銀座に負けないテイストのカクテルを愉しむことができる。

 

旬のフレッシュフルーツを準備し、季節感あるカクテルを

 

供してくれるのだが、山形県、福島県、群馬県、長野県、

 

富山県といった隣県はフルーツの宝庫であり、隣県産の

 

香り高く濃厚な甘みを持つ果物達をタップリと使用した

 

カクテルは新潟美人達からの支持も高く、今後ますます

 

女性一人客の方も増えるのは間違いないだろう。雪の夜に

 

バードアを開けると古町芸妓さんが一人で杯を傾けている、

 

そんなことはまず無いだろうが、そんな和の雰囲気がある

 

落ち着いたバーで、今宵はカクテル「北国」でも呑もう。

 

 


「Bar春日」

 

新潟県新潟市中央区古町通9番町1476

 

SAN古町1F

 

025-226-0380

 

最寄り駅

 

上越新幹線 新潟駅万代出口よりタクシーで10分

 

お店一口メモ・・・

 

新潟にあって京都の花街バーの雰囲気もあり、東京銀座の

 

一流技術とサービスを持つ素晴らしいバーと言えます。

 

お通しに出てくるコンソメスープも銀座を思わせる一品。

 

自家製のラフロイグ生チョコなどおつまみも一工夫あり、

 

ちょこっとつまみながらウイスキーやカクテルと会話を

 

ゆっくり楽しめ、しかもリーズナブルな値段設定ですので

 

まだあまりバーに馴染みのない新潟の若い皆さんにも

 

是非とも足を運んでもらいたいお店だなあと思います。