Compass№158
「博多屋台バー えびちゃん」
「冷泉」
ご存じの通り日本全国各地のバーへと足を運んでいる私だが、
「屋台BAR」経験は唯一博多の「えびちゃん」だけである。
桜の季節になるとそれはもう賑やかになる冷泉公園の一角に
浮かび上がるBARの文字につい誘われカウンター席へと座る。
屋台なのでもちろん空間的には狭いが、冷泉屋台の顔でもある
ヴェテランバーテンダーの海老名さんと息子さん、さらには
奥様が大変素敵な笑顔で気さくに迎えもてなしてくれるお店だ。
中洲や大名の落ち着いたオーセンティックバーも無論イイが、
良くも悪くも博多の文化とされる屋台で飲むカクテルも格別。
バーテンダー歴50年を越えるマスターが作るギムレットは
キレと深さのある味わいで、でもスルッと飲めてしまう一杯。
えびちゃん名物「チーズのマーマレード焼き」をアテにして
スッと飲むのも旨いし、その名物はスコッチとの相性も抜群だ。
えびちゃんのお客さんは県外から来るお客さんが多いのだが
初めてお会いする方なのに自然と会話がスタートしてしまうのが
なんといっても楽しい。「どちらからお越しになったのですか?」
「私達は東京から来たんですよ~。」「おお、そうなんですか。」
「お客さんはどちらからなんですか?」「私は札幌からですよ。」
「ええー!そうなんですかー!?」そんな会話で打ち解ける。
もちろんお客さん同士だけではない。海老名さん親子も会話へ
スルッと入り込み、軽快なトークで笑いをかっさらっていく。
まるでホットカクテルから立ち上る湯気のような温かい空気が
コンパクトな空間いっぱいに広がり、カウンターを挟んで内側も外側も
実に素敵な笑顔が満開になる博多を代表するバーの一つだ。
「タネ」
「屋台」の姿は最近すっかり都内で見かけなくなってきたが、
昔、御茶ノ水にある聖橋のたもとにあったおでん屋台で上司と
おでんをつつきながらコップ酒をよく飲んだことを思い出す。
バーでありながらそんな懐かしいお酒を楽しめるのもココ。
冬メニューとして登場する牛テールスープの洋風おでんは
じっくり煮込んだ牛テールからタップリと旨味が染み出た
ダシをじゅんわりと吸い込んだ白菜がたまらなく旨い一皿だ。
おでんの王道種である大根、餃子を揚げかまぼこで包んだ
博多ならではのおでん種である「餃子天」もしっかり旨いダシを
吸収しているので、ハフハフ言いながらパクつくとこれがまた
身も心もポッカポカにしてくれる。続けざまにハイボールを
ノド奥へ流し込むと適度な苦みと炭酸の弾けるジュガッとした
のど越しがたまらない。バブル時代には銀座のおでん屋、寿司屋
などの和食店にはウイスキーのキープボトルがズラッとならび、
和食とウイスキーという組み合わせをみんな楽しんでいたのを
思い出す。私などはまだペーぺー社員だったのでもっぱら洋酒は
御茶ノ水のトリスバーでサラミ&チーズを食べながらトリハイを
ダブルで楽しむことが多かったが、たまに銀座へ足を運ぶと
午後7時頃のおでん屋カウンター席なんかは高級ブランド服に
身を包んだ高級クラブのホステスさんとそのお客さんで埋まり、
同伴前におでんをつまみながらウイスキーの水割りをやっている
なんて光景が常であったことを思い出す。そんなかつての話を
海老名さんはにこやかな笑顔で聞きつつ、博多にもそんな頃が
あったよとこれまた興味深い話を次々と話してくれる。イイ酒と
イイつまみ、そしてイイ話の三拍子そろったお店はちょこっと
立ち寄るお店にしてしまっては勿体ない、それがえびちゃんだ。
「博多屋台バー えびちゃん」
福岡県福岡市博多区上川端町 冷泉公園前
090-3735-4939
最寄り駅
福岡市地下鉄空港線中洲川端駅より徒歩5分
お店一口メモ・・・
福岡のバーファンのみならず、全国のバーファンに
知られる日本一有名な屋台バーだと思います。
県外のお客さんが多く、お酒好きの観光名所的な
お店だとも言えますが、一見さんでも大変温かく
迎えてくれるので初めての方でも安心できます。
満席ということも多々あり、上手く時間を調整して
行くのが良いでしょう。マスターにそっくりな
コースターの似顔絵はココの大ファンでもある
福岡在住のうえやま とち氏が描いたものです。
クッキングパパの作者といえば分かるでしょう。