Ｃｏｍｐａｓｓ№１５７
「ＢＡＲ Ｓｌａｉｎｔｈｅｖａ」
「黄服」
流川、薬研堀、堀川町、胡町にまたがる広島の歓楽街は
中国四国随一の大きさを誇り、ネオン煌めくその一帯は
都内だと銀座や赤坂、六本木というよりは、どことなく
中野や門前仲町に近い雑多な雰囲気に溢れたエリアだ。
通りの大看板の下をタクシーや高級車がひっきりなしに
くぐる。その中には「ニッカウヰスキー鶴」の看板もあり
かの創業者、竹鶴政孝氏の実家が広島県内の造り酒屋で
あったことからニッカへの支持も高いのかもしれないな、
そんな事を思いながら流川から胡町の方へと向かう私。
流川付近の呼び込みは札幌ススキノに近いものがあり、
私などは彼らとのやりとりもスッカリと慣れてはいるが
不慣れな方は悪質な場合もあるので注意が必要である。
流川通りからえびす通りへと右折し、飲食店が集まる
ビルの２Ｆにあるバーのドアを数年ぶりに押してみる。
「BAR Slaintheva」。スランジーバはスコットランドで
乾杯に使う言葉であり、健康を祈るという意味を持つ。
静かに店内へと足を踏み入れると、カウンターに立つ
仲むつまじいご夫妻が笑顔で私を迎え入れてくれた。
オーナーの江口政和氏、奥様の美代子女史のお二人は
共に全国バーテンダー技能競技大会に出場した実力派。
特にご主人はオリジナルカクテル「マイヨ・ジョーヌ」で
第１４回大会第１位に輝いたご経験もあるバーマン。
自転車ロードレースの世界三大ツールのひとつである
「ツール・ド・フランス」総合1位の選手に与えられる
黄色のチャンピオンジャージをイメージしたカクテルは
ブランデーをベースに、バナナ風味のリキュールなどを
調酒することで深く甘美な味わいに仕上げた一杯であり、
広島に来たら必飲しなければならない人気のグラスだ。
「三角」
全国にご夫婦で営むバーは数あるが江口ご夫妻のお店は
実に自然な夫婦愛を感じる優しい雰囲気がとにかく良い。
松山のバー露口オーナー、露口ご夫妻にも言えることだが
お互いの距離感が近すぎず、遠すぎず、絶妙な間隔を持ち
夫婦としての会話をさりげなく大切にしながら、お客様と
トライアングルを組むような形で会話が弾んでいくという
家庭的な夫婦居酒屋を思わせるスタイルがとても心地良い。
銀座や北新地の高級店のように背筋をピンと伸ばし楽しむ
バーもイイが毎日通うならやっぱりこういうお店が落ち着く。
若い方々にもこういうバーに是非とも通って欲しいですねと
マスターに話すとやはり広島の若い方々も他の地域と同様、
なかなか足を運んでくれるお客様が少ないと大変残念そうな
面持ちで広島の不景気、そして洋酒離れを話してくれた。
大手チェーン居酒屋でリーズナブルな焼酎などを楽しむ
若者人口が圧倒的に増えている昨今、広島市内のバーは
苦戦を強いられており、カクテルやモルトの魅力を伝える
機会を作るべくご夫婦でカクテルコンペ用のオリジナルを
考案したりと積極的に広島バー文化の発展に尽くすお二人。
マスターはソムリエや利酒師の資格もお持ちであることから
ワインや日本酒などお酒全般に対する造詣が大変深いので
洋酒の話に限ることなくお酒初心者の方にも分かりやすく
そして面白くその魅力を語ってくれるバーテンダーであり、
たとえ注文はカクテル一杯でもいいので、スランジーバの
扉を押してみることをオススメしたい。特に若い方々にね。
帰り際、折角だから広島風お好み焼きを食べて帰ろうと思い、
江口マスターにおすすめ店をお聞きすると、地元広島の人が
良く行くという「ふみちゃん」をご紹介して頂き、さっそく
その足で暖簾をくぐる。目の前の鉄板で手際よく焼いてくれる
お好み焼きをハフハフ言いながら食べるとこれが実に旨い。
パリパリの部分ともっちりの部分が混在するソバ、いい塩梅に
火の通ったジューシーな肉、もわんとした焼き加減抜群な野菜。
バーでお酒を楽しんだ後に広島風お好み焼きなんて邪道だよと
言われそうだが私の広島定番コースになること間違いなしだ。
次の広島行きが早くも楽しみになりながら今宵も帰途につく。
「ＢＡＲ Ｓｌａｉｎｔｈｅｖａ」
広島県広島市中区胡町３－９
レインボービル２Ｆ
０８２－５４１－２２５５
最寄り駅
広電路面電車胡町駅より徒歩５分
お店一口メモ・・・
素敵なご夫婦が営む広島を代表するバーの一つです。
文中では江口マスターのオリジナルカクテルを
ご紹介致しましたが、奥様の美代子さんが作る
オリジナルカクテルもこれまたとっても旨いですよ。
お二人が作り出すほんわり温かなバー空間は
自然とくつろぎと安らぎを与えてくれるでしょう。
シガーも楽しめる広島では数少ないお店ですので
モルト＆シガーの組み合わせを試すのもいいですね。
パスタやピザなどのフードメニューも美味しいので
色々な使い方が出来る落ち着いた雰囲気のお店です。
