Compass№156

「bar k家」


  

「石畳」

 

俵屋、炭屋、柊屋といった100年以上もの歴史を持つ

 

老舗旅館が軒を連ねる京都麩屋町(ふやちょう)通り。

 

先斗町や祇園の華やかさある雰囲気の京都も好きだが、

 

古き京都の風趣に富むこの通りもどこか心を和ませる。

 

夕暮れ時にその空気を全身で感じながら六角通りとの

 

四つ辻を目指しハーフコートの襟を立てつつ一人歩くと

 

そおっとライトアップされた看板が遠目に見えてくる。

 

その看板横には奥へと続く細長い石畳の通路があって、

 

つきあたりにバードアらしきガラス窓付きの扉が見える。

 

幾分緊張しながらその扉を開けて静かに足を踏み入れると、

 

古い町屋を利用したという割にはとても開放感のある造りで

 

カウンター横の大きなガラス戸越しに手入れが行き届いた

 

中庭も眺めることができるバーフロアが広がっている。

 

京らしさを視覚で楽しみつつ静かでゆったりた時間の中で

 

旨いウイスキーやカクテルをじっくりと楽しめそうだな。

 

ふとカウンターを見ると、昔から知る馴染みのバーマンが

 

突然ふらっと北海道から訪れた私を見て少し驚いている。

 

「あれ?ふるさん?」と声を掛けられ、うんと少し頷くと

 

硬い表情はすぐに解れ、笑顔になるオーナーバーテンダー、

 

黒野純一氏。滋賀県生まれの黒野さんと私は同い年であり、

 

彼は地元である滋賀のホテルバーでバーテンダーを始めた。

 

その後、東京銀座の「洋酒博物館」、「BAR TALISKER」の

 

有名2店舗にて洋酒の知識やカクテル技術を一心に研鑽し、

 

独立するに当たっては故郷滋賀と隣接する京都での出店を

 

目指し、2004年に念願の自店「bar k家」をオープンした。

 

店名の「k家」(ケーヤ)の「k」は京都の「k」、そして

 

黒野の「k」、さらにこれは秘密中の秘密だが洋酒博物館の

 

オーナーバーテンダーであり、黒野さんの師である北村氏の

 

「k」というトリプルkを引用。ちなみに最後のkは後から

 

私と黒野さんが取って付けたという話もあるがそれは内緒だ。

 


「酒炎」

 

オープン当初は日中にカフェとして営業していたこともあり

 

黒野さんは自宅に帰って眠る暇もなく、お店の2Fで仮眠を

 

取った生活も続いたそうである。そんな頑張り屋さんの彼は

 

私から見ても昔はやんちゃをやってそうなチョイワル系!?の

 

イケメンなのだが、ご本人は「本当にモテないんすよ~」を

 

連発する。一度打ち解けると吉本興業:次長課長の河本バリに

 

ツッコミ&ボケの妙技を見せてくれるのだか、初対面の方には

 

無口で少しツンとしているように見えてしまうかもしれない。

 

しかしそこは是非とも見た目に惑わされずに!?話しかけて

 

みることをオススメする。特に若い世代の方にはある程度の

 

積極性を持って会話することで、同世代である黒野さんも

 

銀座や京都で培ってきた経験話やおもしろ話などを気さくに

 

話してくれることだろう。バックバーにはモルトを中心に

 

スコッチ、バーボン、リキュール等がずらりバランス良く

 

配されているが、今宵は銀座仕込みのカクテルを味わおう。

 

1杯目は「心の旅」。コアントローリキュールにクランベリー、

 

グレープフルーツ、ライムを使った桃色の美しき液体は

 

銀座「洋酒博物館」北村聡オーナーのオリジナルカクテル。

 

柑橘系の爽快感を損なうことなく、コアントローの甘き被膜が

 

柔らかさを引き出す舌触り優しいカクテルである。黒野さんも

 

大変思い入れのあるカクテルの一つで、洋酒博物館で修行を

 

していたことを思い出すという。私の大好きなハイボールや

 

ギムレットも黒野流のレシピで変化球を投げてきたりと、

 

とにかくお客さんを飽きさせない演出家。マティーニには

 

縁があって銀座のバーを紹介して頂いたという名バーテンダー、

 

「MORI BAR」毛利隆雄氏が使うグラスをさり気なく使用する。

 

今宵の締めにと黒野さんが目を輝かせながら薦めてきたのは

 

黒野さんオリジナルの一杯、「ラフロイグ・エスプレッソ」。

 

ラフロイグへと静かに火を灯し、青き炎が立つその液体を

 

エスプレッソカップへと落とし込む。その瞬間周り一面に

 

ワッとエスプレッソの深く豊かな芳香が広がり、味わいは

 

ひたすらコク深く、甘苦さの奥にラフロイグ特有である

 

スモーキーな磯臭いフレーバーがフーッと開いてくる

 

心も身体も温めてくれること間違いない一杯と言えよう。

 

k家には旧町家らしく離れの個室もあり、祇園の芸妓さんと

 

黒野さんが作る旨いカクテルを飲みながらなんて夢絵巻を

 

描くなんてのはまだ若輩者の私が考えることじゃないなあ。

 

 


「bar k家」

 

京都府京都市中京区六角通御幸町西入ル八百屋町103

 

075-241-0489

 

最寄り駅

 

地下鉄東西線京都市役所前駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

京都のオーセンティックバーの中ではまだまだ新しい

 

お店の一つではありますが、静かで落ち着きある店内には

 

凛とした空気が流れ、京らしい風情のある素敵なお店です。

 

銀座仕込みの黒野さんが作るカクテルのレヴェルは高く、

 

さすがは銀座のお客さん達に鍛えられただけはあります。

 

フレッシュフルーツを使ったカクテルは女性にも好評で、

 

甘口に仕上げたカクテルはそっと酔わせてくれる一杯。

 

また銀座タリスカーにいらっしゃった黒野さんですから

 

もちろんレアなモルトもあり、ウイスキーファンにも

 

しっかりと応えてくれるところが嬉しいお店ですね。