Compass№155

「LAGUNA THE BAR」


  

「狙坂」

 

神戸三宮、夕暮れ時の「ハンター坂」を一人歩く。

 

この坂の風景は「北野坂」のような華やかさには欠けるが

 

どことなく風情があり、でもいかにも神戸らしい高センスな

 

「洋」の空気が流れる「大人の坂」というイメージがある。

 

西日が差し込むとグッと良い感じに建物の陰影が浮かび上がり

 

まるで風景画を観ているような素晴らしい景色が眼前に広がる。

 

その中腹に弧を描く天井と大きなガラス窓がとても特徴的な

 

コンクリート打ちっ放しのモダンな建物があることに気付く。

 

設計者は安藤忠雄氏だけあって大きなインパクトに包まれている。

 

建物階段を静かに登り、大きなバードアを慎重にオープンすると

 

天井が高く開放感に溢れた空間に幅の広いカウンターが左右へ

 

大きくその翼を広げており、バックバーは整然と並んだ円形の

 

ホール(穴)から、沢山のロウソクの灯りが漏れ輝くような

 

やわらかで暖かな色をした間接照明達が室内を照らしている。

 

カウンター席にはローバックのレザーソファーが美しく並び、

 

隣同士の間隔をかなりゆったり設定しているのでパーソナルな

 

お酒を楽しむ事も出来る高級ホテルのメインバーを思わせる

 

贅沢な空間が広がっている。幸いにもまだお客さんはいない。

 

私は迷わずカウンター中央のソファーへゆっくりと腰掛ける。

 

低い視線から眺める正面二段バックバーにズラリ並ぶボトルの

 

数に圧倒されるが、更に右手奥に設けられたワインカーヴにも

 

これでもかというくらいワインが貯蔵されているようである。

 

店名「LAGUNA」は米国カリフォルニア州の沿岸都市の名前で、

 

元々このお店は大阪のとある街でワインバーとして営んでいたが

 

ここ神戸ハンター坂へ移転。そのタイミングでワインのみならず

 

ウイスキーをはじめとする各洋酒を取り扱うことになったそうだ。

 

1杯目は正面にみつけたジョン・ベッグをソーダ割りでオーダー。

 

作り手は長身で理知的な眼鏡がとてもよく似合う萱原雅広店長。

 

手際よくアイスをカットし、ウイスキーとソーダをグラスへと

 

注ぎ込む所作に無駄は一切無く、落ち着きを持って作る一杯は

 

キレ、コクともに申し分のない至福の一杯に仕上がっている。

 

 


「喜び」

 

ギムレット、サイドカーと飲み進めているうちにいつの間にか

 

カウンター席は満席。とても和やかな空気に包まれている店内。

 

個人的に少し驚いたのは、神戸の若いドリンカー達のことだ。

 

最近東京や大阪のバーではなかなか20代の若手ドリンカーを

 

見るということも少なくなってきており、足を運ぶドリンカーに

 

関して言えば若くして知識が大変豊富でモルトやカクテルへの

 

造詣が深く、バーテンダーとモルト談義に花を咲かせるという

 

光景を見ることが多いのだが、ここ神戸に関して言えばとても

 

自然にバーを楽しんでいる若い方が多いような気がしている。

 

何を飲むかはその日の気持ち次第でバーテンダーにオススメを

 

お願いして仲間と楽しく会話する。モルトの銘柄やカクテルの

 

レシピはそれほど知らなくとも、バーを使う上でのマナーは

 

きちんと押さえており、とっても感じよく飲む若いお客さんが

 

私の周りを囲んでいる。何だかこっちまで楽しくなってくる。

 

店長の萱原さんをはじめとするバーテンダー陣はその会話へと

 

無理に入っていくようなことは一切しない。カウンター内外の

 

距離感を貴重にし、洗練されたサービスでくつろぎと安らぎを

 

与える豊かな時間をただひたすら提供してくれる。目の前に立つ

 

萱原さんが私の目をしっかり見ながらこう話す。「ふるさん、

 

私達が最も大切にしているのはお酒の味わいやその種類でもなく、

 

BGMでもなく、カクテル技術でもなく、「お客様」なのです。

 

お客様にくつろぎながらイイ時間を過ごして頂く、これこそが

 

私達の最大の喜びなのです。これ以上の喜びはありませんよ。」

 

分かってはいるが、サービスマンとしてナカナカ言えるセリフ

 

ではない。それを堂々と言える萱原さんには自信が漲っている。

 

時計を見るとそろそろイイ時間だなと思った時、バードアから

 

まだ20代前半だと思われる男女3人のお客さんが入ってきた。

 

カジュアルな服装で「いっぱいやんか。」などと話している。

 

ちょうど私の右側が2席空いていたのでサッと会計を済まし、

 

お店を出ようとするとその3人がわざわざ私の所まで来てくれて

 

「私達のためにお席を空けて頂いて本当にスミマセンでした。」と

 

深々お辞儀をしてくれた。「いいえ、楽しい夜を過ごしてね。」と

 

声を掛けて、ふと萱原さんの方を見ると深々お辞儀する彼からも

 

「お席をお譲り頂き有り難うございました。」という心の声が

 

伝わってくる。心がジーンとなった素晴らしいバーに乾杯!!

 

 


「LAGUNA THE BAR」

 

兵庫県神戸市中央区山本通り2-4-24

 

078-261-1888

 

最寄り駅

 

阪急神戸本線三宮駅より徒歩10分

 

お店一口メモ・・・

 

神戸のバーではまだ新しいバーに入りますが、

 

早くも名店と呼ばれるハンター坂のグッドバーです。

 

一人でも佳し、友人とでも佳し、デートなら文句なしの

 

とても雰囲気あるバー空間でお酒を楽しむことが出来ます。

 

チャージは1,000円。価格も銀座や北新地に比べると

 

ややリーズナブルだと思います。お酒を楽しんだ後には

 

昆布茶のサービスもあり、何だかホッとするバーです。