Compass №151
「Bar魔の巣」
「七味」
鹿児島の歓楽街と言えば「天文館」という言葉が浮かぶ。
ただし天文館と言ってもそのエリアは広く、天文館本通り、
にぎわい通り、はいから通り、ゴンザ通り、テンパーク通りなど
幾つもの通りがあり、各通りごとに特徴を持った店舗が並ぶ。
その中でも「七つの味を持つ通り」の意味を持つ「七味小路」は
細い小道に「隠れ家」的なお店がズラリと並ぶことで知られ、
和洋ジャンルを問わずハイセンスな飲食を楽しむ事が出来る。
今宵目指すはこの通りに灯りを点す一軒、「Bar魔の巣」。
店名はもちろん、藤子不二雄A原作の「笑ゥせぇるすまん」。
若き店主が大好きだったこのアニメに登場するバーの名前を
ご自身の独立する際に引用したそうである。そんな店主って
まさかアニメそっくりのメガネマスターが出てくるのでは?と
思ったり、きっと色々想像してしまうのは私だけでは無いはず。
でもこれが何と竹野内豊そっくりの超イケ面だったりするのだ。
そのオーナーバーテンダー山崎嘉仁氏は鹿児島の名店の一つ、
バー「High-Bridge」高橋オーナーの元で修行し、2002年に独立。
どことなく銀座の「バー保志」を思い起こさせるバックバー、
壁には竹久夢二のレプリカ、BGMにはトマティートの情熱的な
ジプシーギターが流れる洗練された落ち着きのあるバー空間。
その中で山崎さんの伸びのあるシェイキング音が美しく響く。
山崎さんとは開店以来、お店へお邪魔しますと言いながらも
鹿児島は遙か遠方の街であり、数年越しにやっと念願が叶い、
訪鹿にこぎ着けご対面。お互いに話したいことが山ほどあり、
山崎さんのギムレットを味わいつつ、創作カクテルの話題から
全国のバー談義まで実に幅広い会話内容で大いに盛り上がる。
その会話の節々で顔に似合わず!?思わず笑ってしまうネタを
織り交ぜてくれるのも流石。お客様を喜ばせたいという気持ちが
ひしひしと伝わってくるその姿勢には思わず頭が下がってしまう。
「薩摩」
山崎さんの所で飲ませて頂いたお酒の中で特に印象的だったのは
鹿児島で生まれたシングルモルト「ヴィンテージ薩摩1984」。
明治5年創業、本格焼酎「貴匠蔵」を造り出す本坊酒造㈱が
1984年に鹿児島の地で蒸留し、その後20年間シェリー樽に
貯蔵したモルト原酒の中から、3樽(トリプルカスク)を厳選し、
ヴァッティングしたというシングルモルトウイスキー原酒だ。
鹿児島男児の心意気が伝わってくるヘビーな味わいはまるで
雄大な桜島の力強い噴煙を表現しているかのような深みがある。
そして芋焼酎「一刻者」を使用した山崎さんのオリジナルである
「カルディ」は芋独特のクセを上手くコーヒーリキュールや
生クリーム、キャラメル、シナモンの衣達で包み込んだ柔らかな
口当たりで、これなら芋焼酎が苦手という方にも喜ばれるだろう。
いずれのオーダーも山崎さんがオススメしてくれたものだが、
とにかくお客さんを良く観察し、最良の物をオススメしようと
一生懸命な方であり、「オススメしたものがダメだと言われると
やはりショックですよ。」と率直に語る。そして初めて来店する
お客さんでもそのオーダーをキチンと暗記し、再訪した際には
前回のオーダーを述べた上、ドリンクアドバイスを進めてくれる。
これはバーテンダーとして欠かせない接客サービスとされるが
なかなか一朝一夕で出来る物ではない。私も多くのバーへと
足を運んでいるが、最近ではなかなかそのようなサービスに
出会うことも少なくなってしまったように思うがどうだろうか。
しかし我々のようなワガママな飲み手側としてはとても「大切な」
お客様として接してくれているような心地で大変気持ちよく
洋酒と会話を楽しめるようになるのである。そんな「お客心」を
くすぐるサービスをこれからも是非続けてほしいと切に願う。
「Bar魔の巣」
鹿児島県鹿児島市東千石町5-17
Tビル3F
099- 239-8081
最寄り駅
鹿児島市営路面電車線天文館駅より徒歩5分
お店一口メモ・・・
店名を聞いてしまうとカウンター席には
アニメの喪黒福造がいかにも座ってそうですが、
実際にバードアを開けると大変落ち着きのある
バー空間が広がり、常連さん達を中心として
ノビノビとお酒を愉しむお客さん達の姿があります。
モルトを中心に洋酒ラインナップもズラリ揃い、
魔の巣風シーザーサラダやカルボナーラなど
フードもありますので、幅広い客層の方々が
楽しめる鹿児島のオススメBarの一つです。