Compass №148

「Bar LINN HOUSE」


 

「樽香」

 

街の規模に対し正統派バーがちょっと少ない印象のある浦和。

 

しかし地元のバーファンがくつろぐ隠れ家はもちろん存在する。

 

今宵はそんなお店の一つである「Bar LINN HOUSE」を訪問。

 

JR浦和駅東口近く、飲食街の中で静かに灯りを点すバー。

 

入口の木製ドアの隣に小さな店名プレートが掲げられており、

 

その扉を開けて階段を静かに下りるとバーフロアへ辿り着く。

 

フロア床には樽材が使用されており、ウイスキーを愛する

 

オーナーバーテンダーのこだわりを感じずにはいられない。

 

どことなくほのかに香る樽香にホッとする。肩の力が抜ける。

 

約6m程あるウッディーなカウンター内、白いバーコートが

 

良く似合う鈴木 正氏が紳士的なスマイルで迎えてくれる。

 

スッと鈴木さんが立つ前のストゥールに座り挨拶を交わし、

 

ウォッカトニックをお願いする。「少々お待ち下さい。」と

 

鈴木さんは手早く材料の準備に入る。所作に締まりがある。

 

店名は鈴木さんがスペイサイド・キースの蒸留所へ行った際、

 

その近くで目にした宿舎のネームを使ったということだ。

 

ちょっと後ろを振り返ってみるとそこには大きな暖炉があり

 

その前には大きなテーブルとゆったりとしたソファーが並ぶ。

 

寒い時期には暖炉に火を入れ読書をしながらお酒を愉しめる

 

スコットランドのカントリーハウスの一室の様な佇まいで、

 

今にもパチパチと燃える薪の爆ぜる音が聞こえてきそうだ。

 

浦和の小さなスコットランド宿と呼ぶに相応しい空間で、

 

やっぱり呑みたくなるのはモルト。眼前のバックバーには

 

鈴木さんこだわりのモルトがズラリ並んでいる。その中から

 

ウイスキーエクスチェンジのグレンタレット28年をもらう。

 

辛口のふくよかな味わい、広がる樽香。旨いコレを呑みながら

 

鈴木さんとスコットランド旅行の話をするこのひとときは

 

実に豊かで幸福、いや、贅沢な時間と言っても過言では無い。 

 


「心底」

 

日本バーテンダー協会の2007年度ベストバーテンダーにも

 

選出され、埼玉支部長を務める鈴木さんは以前に南浦和で

 

「ピース」というバーを営んでいたことは良く知られており、

 

その頃からの常連さんや浦和に移ってきてからのお客さん、

 

そして都内その他から足を伸ばすバーファンのお客さんなど

 

お酒と会話が好きな皆さんでロングカウンターが一杯になる

 

ということもしばしば。中には女性お一人のお客さんもいる。

 

笑顔の絶えないカウンターからは居心地の良さが伝わってくる。

 

鈴木さんは基本的にお一人で切り盛りなさっていらっしゃる為

 

どうしてもお客さんが一杯になるとドリンクを提供するまでに

 

時間がかかってしまう。そんな時は酒棚に並ぶ貴重なモルト瓶を

 

ゆっくりと眺めながら、聖地スコットランドに思いを馳せつつ

 

ドリンクを愉しむのがスマートな呑み手なんだろうなあと思う。

 

でもついついお喋りしたくなってしまう自分はまだまだだなと

 

自戒しながら、黙って琥珀の液体をノドの奥の方へと流し込む。

 

そうそう、鈴木さんはお一人でやっているのにお店は基本的に

 

年中無休というのも凄い。バーテンダーという仕事を心底愛する

 

方でないとそう易々と出来ることではないだろう。お客側として

 

嬉しいとき、悲しいとき、寂しいとき、楽しいとき、いつでも

 

立ち寄れる止まり木があるっていうのはイイ。浦和の皆さんが

 

つくづく羨ましいと思うなあ。まあ、それでも鈴木さんだって

 

息抜きしたい時はあり、まとまって休みをもらって国内外の

 

蒸留所へ足を運び、ウイスキーに対する造詣を深める旅に出る。

 

その旅の話を聞きながらお酒をいただく幸せな時間がたまらず、

 

もっと休みを取ってもらいたいと思ってしまうのは不謹慎か。

 

 


「Bar LINN HOUSE」

 

埼玉県さいたま市浦和区東仲町1-16

 

鳥昇ビルB1F

 

048-882- 0108

 

最寄り駅

 

JR浦和駅より徒歩 3分

 

お店一口メモ・・・

 

浦和でも数少ない正統派バーの一つです。

 

どことなく歌舞伎役者を思わせる風貌の

 

ヴェテランバーテンダー鈴木さんが作る

 

カクテルも個性的で味わい深いと思います。

 

カウンター板は奥行きが広くゆったりしており

 

とてもくつろげる落ち着いた雰囲気の空間です。

 

お店の地上入口があまり目立たないため、

 

見つけるのに少し手間取るかもしれませんが

 

外に置かれたウイスキー樽を目印にしてもらい

 

是非とも足を運んで頂きたいグッドバーです。