Ｃｏｍｐａｓｓ №１４７
「ＢＡＲエルロン」
「マリ」
バーで味わう驚きと感動は実にイイものである。
かれこれ数年前、銀座の名店の一つに数えられた
素晴らしい老舗バーが惜しくもその幕を閉じた。
それが銀座８丁目にあった「Ｂａｒマリ」だ。
石山さんという素敵なマダムがもてなしてくれた
雰囲気あるバーであり、「ＢＡＲオーパ」大槻氏や
東十条「Albion's Bar」高木氏も在籍したお店である。
その「マリ」跡に新店がオープンしたと聞いて、
つい懐かしくなってマリがあったあの雑居ビルの
階段を上り、「エルロン」と書かれたバーの扉を
ドキドキしながら開けてみる。そおっと中を覗くと
あの「マリ」のバックバーが、ほぼそのままだ！
いやあ実に懐かしい。キョロキョロしている私を
「いらっしゃいませ。」と迎えてくれたオーナーに
どこかで見覚えがあると思いきや帝国ホテルご出身で
銀座老舗レストランバーであった「キングジョージ」の
マスターだった佐藤喜代八氏の顔。佐藤さんと言えば
日本バーテンダー協会銀座支部長も務める方であり
俳優の高橋克実氏にどことなく似ていらっしゃる方だ。
紺スーツにレジメンのネクタイがよく似合うダンディな
男性であり、「銀座の接客」のプロフェッショナル。
カウンター真ん中の席に座りデュワーズのソーダ割を
やりながら佐藤さんにお話を聞くと「キングジョージ」が
閉店する際に同じ時期に閉店する「マリ」の話を聞いて
その跡で自分のお店をやりたいと思い開店を決意し、
カクテルやウイスキーを楽しみながら料理も楽しめる
お店を目指して、ファンの多かった「マリ」の雰囲気を
残しつつ開店したのがこの「ＢＡＲエルロン」とのこと。
店名はフランス語で飛行機の補助翼を意味する単語であり
ロゴは「キングジョージ」の王冠ロゴに両翼がついた形で、
「キングジョージ」とともにこのお店を愛する気持ちや、
いつまでもお客さんとともに羽ばたいていきたいという
佐藤さんの気持ちが表れているとても良い名のお店だ。
「感謝」
この日のカウンター席に座るお客さんはご年配のご夫婦が
多く見受けられる。お話をお伺いするとキングジョージに
よく足を運んでいた方ばかりで、マキシムやクレッセントで
活躍した実力派コックの大島氏が「キングジョージ」の頃の
人気メニューを当時と変わらぬ味で提供してくれるので、
その料理を楽しみにしてきたという方が多いようである。
そんな私もヨード卵を贅沢に使った人気のチーズオムレツ、
そしてペペロンチーノに舌鼓を打つ。大島さんのお人柄が
そのまま料理に現れたとても優しい味わい。本当に旨い。
佐藤さんやチーフの二見弘二さんと最近の銀座界隈のバーの
話題で盛り上がる中で、マリと同様に惜しくも閉店した
老舗バー「鴻之巣」の話になる。あのバーは良かったなどと
私が話していると佐藤さんが、私をビックリさせると言う。
時計は午後９時過ぎ。一人の老練なバーテンダーが私の前に
静かにお辞儀をしながら進んでくる。あれ？と思いながら
よく見ると、「鴻之巣」の名バーテンダーであった作山恵氏。
「作山さんじゃないっすか～！」つい私も声が大きくなる。
「ご無沙汰してます。」という作山さんの元気なお顔を見て
私もまさに感無量。まさか「マリ」跡のバーで「鴻之巣」の
チーフバーテンダー作山さんと出会えるとは夢であろうか。
ホッペタでもつねろうかなと思ったが、恥ずかしいので
それは止めておいて久々に作山さんの作るカクテルを堪能。
舌の記憶は確かで、マティーニはまさに作山さんの味である。
鴻之巣からエルロンに来ることになった経緯などを話す
作山さんに「例のヤツももしかしてありますか？」と訪ねる。
「もちろんです。」と取り出したのは鴻之巣の名物だった
自家製「コーヒーウォッカ」。キンキンに冷えたその液体を
ショットグラスに注いでもらい、グッと呑む。実にコク深く
スッと喉に消えていく懐かしい味わいをゆっくりと愉しむ。
こんな素晴らしい出来事があるのだからバー巡りは堪らない。
「ＢＡＲエルロン」
東京都中央区銀座８－４－２
高木屋ビル２Ｆ
０３－３５７１－ ４０３１
最寄り駅
ＪＲ新橋駅より徒歩
４分、地下鉄銀座駅より徒歩７分
お店一口メモ・・・
名店「マリ」、そして「キングジョージ」を実に良い形で
受け継いだ銀座のグッドレストランバーです。
料理佳し、お酒佳し、接客佳しの三拍子揃ったお店でありながら
一見さんでも大変温かく迎えてくれる雰囲気があります。
銀座バーの入門店としても、バーに通い慣れた方がふと
一杯立ち寄るお店としてもオススメしたい本格バーです。
