Compass №143

「ラウンジ馬里邑(まりむら)」


 

「最北」

 

約十年ぶりに日本最北端の都市、「稚内」へと車を走らせる。

 

昔とは違い現在では札幌から旭川を超え士別剣淵インターまで

 

高速道路が開通しており、随分と陸路も早くなったと言えるが

 

それでも札幌から約6時間弱は決して近いとは言えないだろう。

 

真冬のロングドライブを終え、疲れ切った身体を温泉で癒そうと

 

『ノシャップ岬』近く、稚内温泉「童夢(どうむ)」へと向かう。

 

天気は快晴。露天風呂に入ると眼前には日本海に浮かぶ

 

利尻島に真っ白な山肌の美しき利尻富士の姿を確認出来る。

 

そのあまりの「白さ」に、すっかり心も洗われるような気がする。

 

ホテルに入り日も暮れてくると港の方向からは船の汽笛も聞こえ、

 

「ああ、最北の港町へ来たんだなあ。」と改めて実感させられる。

 

まずは腹ごしらえ。稚内で創業し約半世紀、港町の呑み手達を

 

魅了し続けている居酒屋「おまん」のおでんで胃袋を満たし、

 

その近くにある一軒のBarを目指して稚内の歓楽街「仲通」を歩く。

 

昭和49年開店の老舗バー「ラウンジ馬里邑(まりむら)」。

 

時計は午後8時。バードアを静かに開けると数組のお客さんが

 

カウンター&テーブル席に座り、会話にも花が咲いているご様子。

 

今日は稚内で通称「南」と呼ばれる南稚内においてドリンクラリーが

 

開催されたらしくお客さん達の話題のもっぱら中心であり、

 

私はよく磨かれたカウンターの右寄りの席に座りその話を聞く。

 

馬里邑(まりむら)を営むのは土川ご夫妻。主の土川丈義氏は

 

日本バーテンダー協会稚内支部長も務めた人望のある方で、

 

稚内のバー業界を牽引す道北地域を代表するバーテンダー。

 

店名「馬里邑(まりむら)」は札幌の有名クラブであったお店の名を

 

字画が大変良いので引用したとのこと。札幌や稚内で修行を積み、

 

マスターの故郷である稚内にお店を構えてもうすぐ35年にもなる。

 

茶褐色を帯びたバックバーやボックス席を照らすスタンドライトは

 

最近ではあまり見なくなった昭和の薫りを深く漂わせている。

 

 


「夕日」

 

この日、馬里邑(まりむら)にお邪魔したのには実は訳があり

 

土川さんの奥様が手掛けるブログに私が2~3日前に書込み、

 

「稚内にいらっしゃる時がございましたら是非お寄り下さい」

 

との温かいお返事についつい私の神出鬼没の虫が動き出して

 

ママを驚かせようと思い立って稚内まで来た次第なのである。

 

厨房でチャームを作っていたママにブッシュミルズのソーダ割を

 

お願いし、差し出された際に「ママ来ちゃいました、ふるです。」

 

と告げると「あら、それはそれは!」とさすがにビックリ顔。

 

「でも、初めてあったような気がしませんね。」と話すママは

 

すごく自然体な方で、笑顔がとても素敵な美人のママである。

 

「マスターはドリンクラリーの方へお手伝いに行ってますので

 

少ししたら帰ってきます。」とわざわざ教えてもらったので

 

ソーダ割りをチビリチビリとやる。目の前にあるバックバーは

 

美しく清掃、整頓されており、酒棚の上部には土川マスターの

 

コレクションであるサントリーオープンの歴代鳥型ボトルが

 

ズラリと並んでいるので眺めるだけでも楽しくなってくる。

 

午後9時を過ぎるとマスターも南稚内からお戻りになったので

 

ギムレット、サイドカー、アラスカを呑みながら稚内の話や

 

ジャズの話などで盛り上がる。そういえば、私も大好きな

 

ジャズトランペッターのマイルス・デイビスのポスターが

 

店内の数カ所に貼っており、聞くと土川マスターも大好きな

 

ジャズプレイヤーなんですとその経緯を詳しく教えてくれる。

 

そのマスターに私が是非とも呑んでみたかったオリジナルの

 

カクテル、その名も「ノシャップの夕日」をオーダーする。

 

この美しいカクテルはノシャップ岬から眺める夕日がモチーフ。

 

ノシャップ岬といえば、利尻富士を一望できる夕日の名所であり

 

その絶景をカクテルで表現したものだ。稚内を心から愛する

 

マスターならではの作品であり、大変口当たり良いカクテルは

 

女性の方に是非試して頂きたい名カクテルと言えるであろう。

 

そうしているうちにカウンターもボックスもいつの間にか満席。

 

ご年配のお客さんから20代のお客さんまで幅広いお客様達が

 

お酒と会話を楽しんでおり、地元に愛されているお店だと痛感。

 

最後にマティーニを呑んで締め。日本最北端のBarは温かで

 

本当に居心地の良い処だと心に深く刻み込まれた夜となった。

 

 

 


「ラウンジ馬里邑(まりむら)」

 

北海道稚内市中央2丁目5-5

 

0162-23-2039

 

http://www15.ocn.ne.jp/~marimu/

 

最寄り駅

 

JR稚内駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

稚内のお酒好きなら誰もがご存じであろう

 

街のホームバー的存在、馬里邑(まりむら)。

 

折り目正しいサービスを提供するマスターと

 

優しさの中にも芯の強さを感じる温かなママが

 

一見さんでも気さくに迎えてくれるお店です。

 

日本最北端のバーでお酒と会話を愉しむなんて

 

Barファンならずとも一度は経験したいですね。

 

落ち着きのある素晴らしいお店だと思います。