Ｃｏｍｐａｓｓ №１４０
「Ｔｈｅ Ｂａｒ 草間 ＧＩＮＺＡ」
「高僧」
2001年12月にオープンした「The Bar 草間GINZA」も
すっかりと銀座の名店の一つとして定着した感がある。
オーナーバーテンダーはまるで「高僧」を彷彿とさせる
剃髪に口髭顔、純白のバーコートが似合う草間常明氏。
草間さんには失礼であるが、初めて草間さんの坊主顔を
拝顔した際には恐々お話をさせて頂いた事を思い出す。
しかし実際の草間さんはお客様を心から愛し、そして
「バーテンダー」という仕事に誇りを持つ御仁であり、
その会話やサービスからはさり気なく温もりが伝わる。
そんな草間さんは私と同じ道産子で港町「小樽」ご出身。
赤坂にある永楽倶楽部の福島勇三チーフバーテンダーを
師匠とし、赤坂「レストラン・シド」で約3年間勤務、
その後帝国ホテルに移り、約29年間勤務した後独立し、
ご自身の城で銀座のカクテルファン達を魅了している。
フロア内はオーセンティックバーとしては大変明るく、
落ち着ついた漆喰白壁に適宜配置された酒棚達前の
真っ直ぐ伸びる美しい木製カウンターの中央席座り、
ウオッカ・トニックでノドをゆっくり湿らせながら
北海道から仕入れているという激うまドライコーンを
ツマみながら、私達の故郷「北海道」の話に花が咲く。
その中で「寒さ」の話題となり、私が－２０℃以下の
中で仕事し、「ダイヤモンド・ダスト」の出現経験も
あることを話していると連れが「コレだね」と指差す。
その指の先には今月のオススメカクテルのボードがあり
1999年にCCS（ｶｸﾃﾙ･ｺﾐｭﾆｹｰｼｮﾝ･ｿｻｴﾃｨ）カクテルコンペにて
草間さんが優勝した作品「ダイヤモンド・ダスト」の文字が。
全くの偶然だが、これは呑まなければと早速オーダーする。
ライチ、ピーチのリキュールとグレープフルーツジュース、
そこへ生クリームを少し落とし、丁寧にシェークした液体に
ブルーキュラソーを静かに注いで、軽くステアする草間さん。
差し出された一杯は実に幻想的な色彩を持つカクテルであり
まさに「ダイヤモンド・ダスト」を彷彿とさせる白色系に
仕上がっており、瞬時に北海道への思いが募る一杯なのだが、
一口含むと甘口で実にフワッとした心が優しくなる味わい。
草間さんの創作力とカクテル技術が光っている一杯である。
「親爺」
「ふるさん、これオヤジのカクテルレシピブックです。」
そう言って草間さんが差し出した一冊の美しいブックは
福島勇三バーテンダーが丁寧な英字で書き留め続けた
カクテルレシピがズラリと収録された素晴らしい一冊。
福島さんのとあるお祝いにと、遠慮する福島さんを
草間さんが説得して制作された記念のブックであり、
カクテルファンならば思わず欲しくなる豪華な一冊。
「昔、私たちの下積み時代はステアやシェイキング、
レシピを師匠から教わるのではなく、そのサービスや
カクテル技術を「見て覚える」、いわゆる「技を盗む」
しか無かったよ。そして上下関係が厳しかったから、
師匠に自分の方から話を出来るまで何年もかかった。」
そう感慨深げに話す草間さんの口ぶりからは、当時の
下積み、修行の厳しさや大変さがひしと伝わってくる。
最近では自学やバーテンダースクールで技術を勉強し
洋酒知識を身につけて、下積みや修行を経験せずに
ポーンといきなり独立するってケースもあるそうだが
やはりサービスの質の差は歴然であり、満足の行く
サービスを求めるなら、私は草間さんの様な苦労を
実力にしてきた方のサービスをいつも選んでしまう。
草間さんをサポートする横野由紀子バーテンダーも
素敵な笑顔でカウンター越しに癒しを提供してくれる。
そこには確かな「味」「心地良さ」「安らぎ」があり、
同じモノを求める「お客さん」も集う。その中に
身を置きながら日々の疲れを会話とお酒で癒す贅沢は
何にも代え難い「豊心」で満たされること間違いない。
居心地が良いというのはこういう事を言うのだろうな。
「Ｔｈｅ Ｂａｒ 草間 ＧＩＮＺＡ」
東京都中央区銀座７－７－６
アスタープラザビルＢ１Ｆ
０３－３５７１－１１８６
最寄り駅
地下鉄銀座駅より徒歩５分
お店一口メモ・・・
ゆったりと心身ともにリラックス出来る空間で
草間さんが織りなす色鮮やかなカクテル達を
じっくりと楽しめるお店です。文中に登場した
ダイヤモンド・ダストをはじめ、飲み口の良い
カクテルも豊富ですので、女性のお客さんも
多く見受けられます。美味しいホットサンドや
オイルサーディンのネギ焼きなどフード類も
数種類揃っております。是非お試し下さい。
