Compass

№14    

「BAR KAICHI(嘉一)」


 

「飛び石」

 

真冬の「つくば」へ。

 

名山:筑波山を吹き降りてくる筑波おろしを背に受け

 

寒さにちぢこまりながら一軒の民家を目指す。

 

入り口の塀門に「齊藤」とかかれた表札を見つけ

 

他人の家の敷地にもかかわらず

 

無断で飛び石の通路をやや足早に進むと

 

その突き当たり側には何とガラス窓付きの木製ドアが。

 

中を覗き込むと実に暖かそうな店内のカウンター内に

 

やや背の高いバーテンダーが立つ姿が見える。

 

早速扉を開けて店内に入ると

 

エラ・フィッツジェラルドの美歌が静かに流れており

 

音質から判断すると

 

スピーカーシステムにもかなり力を入れていることを

 

感じずにはいられない。

 

先程の背の高いバーテンダーは

 

このお店のオーナーバーテンダー齊藤嘉一氏。

 

店名の「KAICHI」はもちろん齊藤さんのお名前である。

 

朴訥な好人物であり眼鏡が似合うその顔は

 

どことなく俳優のジャン・レノを彷彿とさせなくもない。

 

明るい店内にはコの字型をしたバーカウンターの他

 

奥にはテーブル席などもあり割と広い。

 

カウンター越しに向かい合わせになる格好で

 

先客の方もお二人ほどいらっしゃったが

 

BGMに耳を傾けながら無言でお酒を愉しんでいらっしゃる。

 

齊藤さんと正面で対峙する格好でストゥールに腰掛け

 

このお店に話し声は似つかわしくないなと思いながら

 

ボルスのジンでジントニックを所望する。

 

 


「会生」

 

暖かい室内で少しほっとしながらドリンクを呑む。

 

齊藤さんはこちらから話しかけない限り

 

そうめったやたらとお客さんに話しかける人ではない。

 

それが逆に心地よいと感じるお客様の皆さんが

 

きっとこのバーには集まるのだろう。

 

ふと目を向けたバックバーには

 

たくさんの酒瓶達が美しい配置で並べられているが

 

その中でも「Rum」という大きな文字と

 

大航海時代に活躍していたような帆船の絵が

 

描かれている酒瓶の一団が私の興味を引き、

 

ストレートで静かに一杯注いでいただく。

 

キングスバリー社からリリースされている

 

注目のラム「ポートモラントラム」である。

 

このラムは南米ガイアナのデメララ川近くにある

 

ポートモーラント蒸留所産の1989年蒸留ラムを

 

わざわざスコットランドに運び、

 

アイラモルトを中心として個性の強い蒸留所の樽で

 

熟成させたダブルマチュアード方式、

 

つまり2つの熟成樽の中でその味を造り上げたラムなのである。

 

それぞれ微妙に異なりはするが、

 

どの瓶をとってもラム本来の甘みの中に

 

モルトの香りと風味がほんのり漂う名品ばかりであり、

 

その両者が大好きな私にとっては

 

まさに「一粒で二度美味しい」といったところである。

 

中でもアイラモルト香は潮の香りをイメージさせるものであり

 

この瓶に描かれた帆を目一杯に張る帆船を眺めていると

 

ふとその思いはここ茨城県が面する太平洋へとリンクする。

 

うん、この冬時期の茨城県沖といえば

 

鮟鱇(アンコウ)が水揚げされている時期では無かろうか。

 

身のプリプリ感とゼラチン質感がたまらない

 

日本3大鍋の一つ「鮟鱇鍋」は私の大好物であるが

 

その鍋の味わいを思い出すとついついニンマリしてしまう。

 

齊藤さんの「東京行きの最終バスでしたらそろそろご準備を」

 

という言葉にハッとして時計を見ると

 

あっという間な時間を過ごした事に気が付く。

 

佳きバーとは本当に佳く時間を忘れさせてくれるものだ。

 

 


「BAR KAICHI(嘉一)」

 

茨城県つくば市東新井21-21

 

0298-51-8262

 

最寄り駅

 

高速バス つくばセンター駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

つくば市のバーファンにはお馴染みの

 

ホームバーを思わせる落ち着いたお店です。

 

音佳し、酒佳しでカクテルも大変美味しく、

 

女性お一人の方でもオススメです。

 

静かに良き夜を過ごしたいお客様のためにも

 

店内はあまり大きな声で話すのは御法度。

 

旅の一ページにぜひ加えたいバーです。