Ｃｏｍｐａｓｓ №１３６
「Ｂａｒ ＤＯＶＥＣＯＴ」
「密度」
埼玉県さいたま市「浦和」駅前で一杯やろうかと
馴染みの満寿家で鰻をアテに日本酒をやってから
カクテルが呑みたくなり一軒のBarを目指し歩く。
都市の規模に比べてオーセンティックなBarが
数少ないと言われる浦和ではあるが、いやいや、
この浦和にも素晴らしいお店はあるものである。
浦和駅西口からロイヤルパインズホテル正面へと
中山道へ交差するように伸びる「仲町平和通り」。
通りの左右には飲食店が並んでおり、夕方になると
イタリアンやアジアン料理店などに灯りがともり、
浦和レッズの試合後などは地元サポーターであろう
赤のお客さん達で大いに賑わい盛り上がっている。
そんな熱き活気を感じながら、とあるビルの階段を
３Ｆまで足下に気をつけながらもゆっくりと登り、
もうすぐ３Ｆだという手前で今日は何を呑もうかと
考えると自然と顔がほころんでしまうのは性だろう。
「Bar DOVECOT」。平成１１年開店の本格バー。
店内のカウンターは少し珍しい造りになっており、
手前左側にある正バーカウンターと、フロア中央に
備え付けられている副カウンターと２つの止まり木が
並んでおり、どちらに座ろうかと迷うかもしれない。
バックバーにずらり並ぶお酒達を眺めたければ左側へ、
友人や恋人と会話を楽しみながらなら呑むなら中央へと
その時々のアプローチの情況に応じてお店の楽しみ方を
変えてみたいと思わせる不思議な導線が特徴的である。
左手カウンター内には白のバーコートにレジメンのタイ、
オシャレな眼鏡が良く似合うオーナーの秋山裕司氏が
実にしなやかな手つきで美しくステアしているのだが、
その所作は銀座の名バーテンダー、毛利隆雄氏仕込み。
銀座「MORI BAR」での修行期間は大変短いそうだが、
秋山さんのステアからは修行の密度というものを感じる。
「鳩舎」
店名「DOVECOT」は英単語で「鳩舎」を表しており、
お店が羽根を休める鳩舎のような場所でありたいと願う
秋山さんの思いを込めたネーミングであり、鳩は平和の
シンボルであることから、平和の使者が集う場所として
是非利用してもらいたいという願いも重ねられている。
さらにもう一つは秋山さんのご出身地「鳩ヶ谷市」の
「鳩」の字を引用したとのこと。ウマくこの英単語を
お店の名前とした秋山さんは高校で英語を教えていた
ご経験もあるというのだから、これは納得の名前である。
私が頼んだアードベッグTENのアレキサンダーを作る
秋山さんが「ふるさん、このレシピ面白いですね。」と
興味深げに話す姿に、「モルト好きには受けますよ」と
返すと「これなんか合わせるのはどうでしょうか？」と
差し出されたのはロイズの生チョコ。甘すぎない一片は
このアレキサンダーとのマリアージュも具合が大変良く
ほんわかとした気持ちになってくる。生チョコの他にも
ホットサンドやオイルサーディン、そして季節限定だが
夏には涼しげな一品料理として稲庭うどんなどもあり、
楽しみはお酒だけに止まらず、フードへも広がっていく。
さらには秋山さんと私の共通な話題であるBar巡りへと
会話も広がり、各地のバー情報を交換しているうちに
時も過ぎ、そろそろ締めの一杯の時間になってしまった。
最後にハバナクラブ７年のジャマイカ・マティーニ、
通称「ハバティーニ」をオーダーする。このカクテルは
秋山さんの師である毛利さんが考案したカクテルで、
ハバナとシェリーとの相性が素晴らしく、舌の上を
滑るかのようになめらかにノドへと流れ込み、喉元で
ポッとするのがたまらない一杯であり、師匠の所作を
思い出しながら氷で液体を冷やし込むステアを見せる
秋山さんの真剣な眼差しは最高の一杯を予感させ、
ロングステアはまるで魔法のステッキを振るようだ。
「Ｂａｒ ＤＯＶＥＣＯＴ」
埼玉県さいたま市浦和区仲町１丁目１０－１５
ＡＴビル３Ｆ
０４８－８３３－０２３４
最寄り駅
ＪＲ浦和駅より徒歩６分
お店一口メモ・・・
埼玉を代表する素敵な本格バーの一つですが、
秋山さんをはじめ、スタッフは大変気さくなので
緊張せず肩の力を抜いてお酒を楽しめるお店です。
カクテルに加え、モルトの品揃えも充実しており
面白いモルトの瓶もバックバーに並んでいますので
バー初心者からモルトファンの上級者の方まで
幅広いお客さんが楽しめるお店になっております。
お客さんは地元の方が多いですが、県外からの
一見さんも大切にしてくれるグッドバーですよ。
