Compass №134

バー「歯車」


 

「蝋燭」

 

渋谷神南にある「ヌーヴェルヴァーグ」といえば

 

映画やCMの企画・美術で活躍する制作会社であり

 

映画「東京タワー」や「BABEL」、「亡国のイージス」、

 

CM「ウィダーインゼリー」や「Asahi若武者」など

 

馴染みのある作品を多数手掛けたグッドカンパニーだ。

 

このヌーヴェルヴァーグが近年、Barのデザインに

 

携わっていることはBar好きな方ならご存知だろう。

 

新宿「ル・パラン」や六本木「ネ・プラス・ウルトラ」、

 

元麻布「ラ・ユロット」など、どの店舗についても

 

個性的な内装を思い出させるが、これらを制作した

 

会社こそがこの「ヌーヴェルヴァーグ」なのである。

 

そのヌーヴェルヴァーグがデザインを担当したBarが

 

Bar激戦区である神楽坂の一角に2007年5月誕生した。

 

バー『歯車』。

 

この歯車を回すオーナーバーテンダーは濱本義人氏。

 

まだ20代後半ながらも大変落ち着きのある接客で

 

お客様をおもてなす濱本さんは、名店として知られる

 

尾崎 浩司のお店「バー・ラジオ」で修行を積み重ね、

 

その後「バー・ラジオ」から独立して新宿三丁目に

 

「ル・パラン」を開店した本多啓彰氏の片腕として

 

ご活躍なさっていた最中にちょうど神楽坂において

 

濱本さんも納得できる物件が偶然見つかったことから

 

良いタイミングだということで独立に至ったそうである。

 

錆加工が施されたアジのある「歯車」と書かれた扉を

 

そっと開くと真竹が並べられた真っ暗な通路がある。

 

恐る恐るその通路を行くと暗闇の中に蝋燭の炎が。

 

その炎に気を取られていると、両腿のあたりに何かが

 

当たった感覚がある。手で触れてみるとこれは椅子だ。

 

その時、目の前の人影がこう言った。

 

「いらっしゃいませ。足元も暗いのでお気をつけ下さい。」

 

目をよく凝らして正面を見ると店主の濱本さんである。

 

 


「鏡板」

 

なんとなく少しホットしながら椅子にゆっくり腰掛ける。

 

ロウソクの炎が揺らめくバックバーに酒瓶は一本も無く

 

能舞台の「鏡板」の如く板張りが施されており窓も無い。

 

カウンター板は松を使っており、一番幅広い部分では

 

100㎝以上あるのでとてもゆったりとした印象を受ける。

 

「最初からバックバーには何も置かないつもりでした。

 

それがかえって落ち着きある空間を作ると思いまして。

 

カウンターも出来るだけゆったり感を持たせたつもりです。

 

「和」をベースに内装に取り組んだのは、神楽坂という

 

街の持つ雰囲気、空気を意識しました。それとあわせて

 

この街に流れる割とゆっくりした時間を大切にすべく

 

カウンターやテーブルなどをゆったりとさせました。

 

私の気に入っている喫茶店などにデザインスタッフを

 

連れていき、ここのこんな部分を取り入れてほしいとか

 

スタッフには色々と相談したり付き合ってもらいました。」

 

と嬉しそうに話す濱本さんの目は自信に満ちあふれており、

 

濱本さんとヌーヴェルヴァーグとの傑作コラボと言えよう。

 

そんなこだわりに溢れた店内は何だか時間が経つに連れ

 

妙に落ち着いたリラックス出来る空間となってくるのが

 

とても不思議だ。それまでぼおっとしか見えなかった

 

店内の様子も徐々に暗闇に目が慣れてきたせいだろうか、

 

次々と浮かび上がってくる景色がとても楽しくなってくる。

 

濱本さんと会話しながら飲むギムレット、マンハッタン、

 

ラフロイグアレキサンダー、さすがにどのカクテルも

 

とても優しくて、でもシッカリとした演出力のある

 

濱本さんらしい仕上がりだ。もちろんカクテルに使う

 

グラスなどはラジオの血筋らしくアンティークが中心。

 

グラスを眺めているだけでも楽しくなってくる繊細な

 

デザインはお酒があまり飲めない方でも楽しめるだろう。

 

土・日の日中に神楽坂でちょっと買い物や散歩した後に

 

ウイスキーやカクテルを楽しんでもらおうと、定休日は

 

月曜日にしており、営業時間が15:00からというのも

 

我々神楽坂Barファンにとっては嬉しい設定である。

 

 


バー「歯車」

 

東京都新宿区若宮町16

 

塩谷ビル2F

 

03-5206-8837

 

最寄り駅

 

JR・地下鉄飯田駅より徒歩7分

 

お店一口メモ・・・

 

神楽坂アグネスホテルの近く、料亭や花街バーなどが

 

並ぶ街並みの一角に「歯車」の文字が光ってます。

 

建物はそれほど目立たないので注意が必要です。

 

「ル・パラン」同様に葉巻に加え、中国茶も提供。

 

ヌーヴェルヴァーグが手掛けた純和風の店内、

 

日常とは切り離された空間演出は流石のものです。