Ｃｏｍｐａｓｓ №１２９
「ＷＨＩＴＥ ＲＡＢＢＩＴ ＴＡＶＥＲＮ」
「中津」
『大阪のBar』と聞くと、おそらく一般的には
キタやミナミという印象が先行すると思うのだが
十三（じゅうそう）近辺や泉北地域にもイイBarが多い。
今宵はその十三のお隣の駅である「中津」へと出没。
この十三～中津のあたりはいわゆる「下町」であり、
どこか懐かしい空気を感じる情緒ある街並みが残る。
日帰り出張で大阪に行った時などは十三の立ち呑み屋で
先輩達とワイワイ盛り上がり、すっかり時間を忘れて
ふと時計を見ると新幹線の最終が迫り、御堂筋線から
新幹線へと急いで乗り継いで帰京したこともしばしばだ。
今宵は梅田から地下鉄御堂筋に乗り中津駅を降りて
数分歩いたちょっと奥まった所にポッと灯りを点す
ウイスキーファンが集まる一軒のお店を目指し歩く。
「WHITE RABBIT TAVERN」。
店名を聞いて「おっ？」と思った方もいることだろう。
テネシーウイスキー「ジャックダニエル」直営のバー、
「WHITE RABBIT SALOON」がその由来となっている。
「WHITE RABBIT SALOON」はアメリカ禁酒法制定以来
閉店したままであったが、現在はジャックダニエル蒸留所内
ビジターセンターへカウンターなど一部が移設されたそうだ。
その名を「SALOON＝酒場」から「TAVERN＝居酒屋」と
アレンジしたのはオーナーバーテンダー扇田 順氏。
扇田さんは茶屋町の「AFTER RIGHT」の姉妹店であり
今は残念ながら閉店してしまった「Narrow Water」にて
ご活躍なさった後、梅田駅北側のお店「PEKO」を経て
2003年、中津に念願であったご自身のお店をオープン。
「この街は生活の中に“バー”というもの自体が無かった
『下町』でしたのでお客さんが来るかどうか心配でした。」
という扇田さんですが、地元のお客さんはもちろんのこと、
扇田さんが多数コレクションするレア・ボトルを求めて
大阪のウイスキーファンが遠くからも訪れるバーとして
すっかりとこの街に定着した感のあるグッド・バーである。
「勇士」
「WHITE RABBIT TAVERN」の酒棚やカウンター上には
美しく磨かれたレアなモルトやバーボン達がズラリと並ぶ。
いつもはボトラーズ物のアードベッグなどを好んで呑む私に
扇田さんが薦めてくれたのはバーボン「オールド・テーラー」。
この「オールド・テーラー」は南北戦争の勇士として活躍した
創業者エドモンド・Ｈ・テーラー陸軍大佐の名を付けたボトル。
元々テーラー氏は銀行家だったそうだが、バーボンの製造に
大変興味を持ち、その後転身して蒸留所を興したとのことだ。
今日薦められたテーラーはバーボンが薬として取り扱われ、
処方箋を見せないと購入できなかった禁酒法時代前後期間に
政府管理の保税倉庫で4年以上熟成し100プルーフ（50度）で
出荷する事を定めたボトルド・イン・ボンド（ＢＩＢ）法に
基づいて蒸留されたなかなかお目にかかれない貴重なボトル。
粗悪品が氾濫した1800年代後半に、ユーザーへ本物のお酒を
提供するため、テーラー氏は法制定に多大な貢献をした事から
「ボトルド・イン・ボンド（ＢＩＢ）の父」とも呼ばれており
目の前に置かれたボトルにも氏の名前とＢＩＢの文字が読める。
この琥珀色の液体をショットグラスになみなみと注いで頂き、
口元へと運んだ瞬間にふくらみのある豊かなバーボンの香が
クワっとと鼻の奥へと進み、少しずつ口に含むとジュワッと
その濃厚で骨格がガッチリした味わいが口、そしてノドへ
広がっていく。濃厚なのだが雑味が全く混じっていないので、
スースーとノドを通り、食道の下あたりでスッと消えていく
芸術的なバーボンであり、しかしながら上品な味わいではなく
田舎っぽさのあるどこか懐かしい味の素晴らしいお酒である。
そう言えば何だか中津で呑むにはピッタリなお酒だなあと
少しニヤケながら呑んでいる私を見て、扇田さんが笑顔で
「ふるさんて、ほんま好きなんやね。」と次々いいボトルを
取り出して丁寧に説明してくださる。そしていつの間にか
私の両隣に座る地元のお客さんも交えてウイスキー談義へ。
大阪下町の酒場らしく笑いと冗談で盛り上がりながら
みんなで旨いお酒を呑んで素敵な夜は更けていくのである。
「ＷＨＩＴＥ ＲＡＢＢＩＴ ＴＡＶＥＲＮ」
大阪府大阪市北区中津１－１３－５
ハピネス２１ ２０２
０６－６３７３－６１５０
最寄り駅
地下鉄御堂筋線中津駅より徒歩３分
阪急線中津駅より徒歩１２分
お店一口メモ・・・
スーツで背筋を伸ばし酒を呑むというよりは
暑いときにはアロハでも着てラフな格好で
旨い酒と楽しい会話を愉しみたいＢａｒです。
店内の空気もなんだかそんな温か～い感じで
お酒に詳しい方も、ぜんぜんそうでは無い方も
皆さんそれぞれの楽しみ方で盛り上がっている
そんなアットホームで素敵なグッドバーなのです。
しかしながら扇田さんの洋酒コレクションは必見。
マニアなら垂涎モノのボトルもゴロゴロしてますよ。
