Compass №127

「Bar le Parrain」


 

「渡仏」

 

久しぶりに新宿の街をブラブラと歩く。

 

まだ20代の若い頃は勤務先の先輩達に

 

今ではその数がぐんと少なくなってしまった

 

コマ劇近くの古いキャバレーなんかにも

 

連れて行ってもらったことを思い出しつつ

 

ちょっと遠回りして新宿三丁目へと到着。

 

新宿三丁目といえば落語定席として有名な

 

「末広亭」というイメージが私の中にあるが

 

そのすぐお隣のビルに一軒の個性的なBarが

 

今宵も静かにひっそりとその灯りを点している。

 

エレベーターを降りるとまるで映画に出てくる

 

古い洋館に隠された地下室の扉をイメージさせる

 

重厚なバードアが私の前に立ちはだかっている。

 

そして壁には店名ロゴがランプの灯りに照らされ

 

うっすらと浮かび上がっていることに気づく私。

 

「Bar le Parrain」。

 

「le parrain(ル パラン)」とは、フランス語で

 

「ゴッド・ファーザー」という意味を持つ言葉。

 

名付け親はオーナーバーテンダー本多啓彰氏。

 

本多さんは有名店Bar 2rd Radioや3rd Radioにて

 

調酒技術を磨き上げた実力派バーテンダーであり、

 

大の映画好きな方だ。マーロン・ブランド作品を

 

こよなく愛し、 店名はもちろんその代表作を引用。

 

バーテンダーに成り立ての頃に渡仏しパリで見つけた

 

映画ポスターに書かれた「le parrain」から引用した。

 

店内には映画のワンシーンが納められた写真立ても

 

いくつか飾られており、雰囲気作りに一役買っている。

 

勇気を持って先程のバードアをゆっくりと開けて

 

フロアに入るとお店の作り込みに一見さんはまず驚く。

 

歩き心地の良い高級ジュータン敷きのフロアを行くと

 

やや暗めの照明に浮かび上がる重厚感漂うバックバー、

 

よく見ると19世紀に使われたアンティーク物食器棚と

 

薬品棚が使われており、テーブル席側には暖炉も見える。

 

真空管アンプを使った拘りのオーディオシステムからは

 

静かにベルディソプラノが流れ、止めてしまった葉巻を

 

思わずお願いたくなる落ち着きあるどっしりした雰囲気。

 

まさに「大人の空間」とはこの雰囲気を指すのだろうな。

 

 


「商社」

 

カウンター席に座り、ウォッカ・トニックをオーダー。

 

昔は一杯目にはいつもジン・トニックを飲んでいたが

 

最近どこのお店へ行っても「まずはジン・トニック」という

 

お客さんが増えたので、ひねくれ者の私はこれから始める。

 

本多さんが作る一杯は野太さを持ちながらも実に飲みやすく

 

サイドカー、ギムレットと飲み進めるがどれも完成度が高い。

 

アンティーク物のグラスに注がれた液体は芸術的でさえあり

 

名店「Bar Radio」オーナー尾崎  氏の血筋を確かに感じる。

 

よくBarを特集した雑誌等で本多さんの写真を見かけると

 

物静かで少し気難しそうな方かなという印象を受けるが

 

実際の本多さんは本当に話し好きな方で個人的に言うならば

 

饒舌さと豊富な知識を感じる総合商社の営業マンのような

 

相手を惹き込む話力を持つ魅力的なバーテンダーである。

 

映画、グルメ、お酒、Barなど話題は実に多岐にわたり

 

大変マニアックな部分まで掘り下げるいわばオタクである。

 

その本多さんに大好きなラスティ・ネールをお願いする。

 

本多さんが「ふるさん、これが私のオススメですよ。」と

 

ニヤリ差し出してくれたのが「チェベック」のラスティ。

 

チェベックとはスカイ島のモルト「タリスカー」をはじめ

 

数種類のウイスキーを使用したブレンデッド・ウイスキー。

 

銀座「The Bar 草間GINZA」草間氏や吉祥寺「BAR WOODY」

 

田中氏が好きなウイスキーで風味の良いカクテルに舌鼓を打つ。

 

これから良く呑むことになりそうなやらかな味わいの一杯。

 

あと1~2杯飲んだらそろそろイイ時間かなと思った頃に

 

3年間本多さんの下で修行した濱本氏が突然退店すると話す。

 

神楽坂の毘沙門天裏あたりに新店をオープンするということで

 

バー激戦区となっている神楽坂にまた注目のバーが誕生予定。

 

カウンターは彼の門出を祝う声で一段と華やかになった。

 

 


「Bar le Parrain」

 

東京都新宿区新宿3-6-13

 

石井ビル3F

 

03-3358-8432

 

最寄り駅

 

JR新宿駅東口より徒歩7分

 

地下鉄新宿三丁目駅より徒歩2分

 

お店一口メモ・・・

 

街の規模に対しオーセンティックバーが

 

割と少ないと言われる新宿地区において

 

個性を放つ貴重な本格派バーだと思います。

 

本多さんの作る美しいカクテルの数々は

 

飲み手を別世界へと誘ってくれることでしょう。

 

お酒があまり飲めないですという方でも

 

本多さんとの会話でゆっくり楽しめることでしょう。