Compass №122

「絵里香」


 

「銅版」

 

銀座6丁目、数寄屋通りのとあるビル2Fに

 

「会員制」と書かれた一軒のBarがある。

 

昭和43年7月に開店した老舗Bar「絵里香」。

 

銀座の一流店らしい黒色の重厚な扉の取っ手を握り

 

静かに開けると赤色のベスト姿が似合う老紳士と

 

清潔感ある青年バーテンダーが笑顔で迎えてくれる。

 

ロマンスグレーのオーナーバーテンダー中村健二氏と

 

中村さんの下で技術・サービス力を磨く須田善一氏だ。

 

温かく、気持ち良く中へと招き入れてくれるお二人に

 

「お久しぶりです。」と軽く会釈し更に歩を進める。

 

店内照明は銀座のBarの中では明るい方であり

 

美しく磨き上げられた10席ほどあるカウンターの

 

ほぼ中央にあるストゥールにゆっくりと腰掛ける。

 

茶褐色の柔らかなストゥールはとても心地よく

 

座った瞬間に「これは長居してしまう」と感じる。

 

銅板製オブジェの浮き模様が美しいバックバーを

 

ゆっくりと眺めながらジン・フィズを味わう私に

 

「ここ数年銀座も少しずつ人が戻って来てるでしょ。」

 

と話す中村さんは、昭和11年奈良でお生まれになり

 

18歳で上京なさってバーテンダーの世界へと入り

 

約14年ほど修行した後、この「絵里香」を開店。

 

素晴らしいサービスと調酒技術で銀座の飲み手を

 

魅了する一方、日本バーテンダー協会連合会理事長や

 

銀座社交飲料協会理事長といった要職をお務めになり

 

Bar業界、そして銀座の発展に尽力する方である。

 

その中村さんに師事し経験を積み、今や師の片腕として

 

落ち着いた大人のサービスでリラックスさせてくれる

 

須田さんも多くのカクテル技能大会にて入賞する実力派だ。

 

 


「映画」

 

須田さんに2001年サントリー・カクテルコンクールにおいて

 

優秀賞を受賞した作品、「ウィンドミル」をオーダーする。

 

ベースにウオッカを使い、ブルーキュラソーとホワイトグァで

 

サッパリ系に仕上げたトロピカル感のあるカクテルである。

 

「まだまだ彼は伸びますよ。若い人は羨ましいですね。」と

 

手際よく調酒する須田さんを見て中村さんが嬉しそうに言う。

 

当WEBサイトでもご紹介させて頂いている銀座1丁目の

 

名店である「スタア・バー・ギンザ」オーナーの岸久氏も

 

「絵里香」で中村さんの片腕として長年チーフを勤めた後

 

独立して現在に至っており、お二人にとって中村さんは

 

まさに「育ての親」とも言うべき大切な存在なのである。

 

そんな中村さんは銀座と映画をこよなく愛する方であり

 

日曜日は銀座や日比谷の映画館へ出向き映画を楽しむのが

 

中村さんの楽しみでありリフレッシュとなっているそうだ。

 

「映画好き」というバーテンダーの方は中村さんに限らず

 

新宿三丁目「le Parrain」オーナーバーテンダー本多啓彰氏や

 

横浜「CASABLANCA」オーナーバーテンダー山本悌地氏など

 

映画好きが昂じて好きな名作映画のタイトルを店名にした

 

という方もいるくらい映画好きな方が多い業界とも言える。

 

ドライフルーツをアテに白州12年のソーダ割りを呑みながら

 

「CASABLANCA」「風と共に去りぬ」など1940年代前後、

 

かつてのアメリカ映画の金字塔とも言うべき作品達の話になり

 

今ではDVDで自宅でも楽しめますががやはり映画を観るなら

 

映画館へ行って楽しむのが一番ですねとお互いに頷き合う。

 

今夜はたまたま他のお客さんもいらっしゃらないので

 

中村さんと遅くまで映画の話で盛り上がるとしようかな。

 

 


「絵里香」

 

東京都中央区銀座6-4-14

 

HAOビル2F

 

03-3572-1030

 

最寄り駅

 

東京メトロ銀座駅から徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

バックバーのボトル数は多すぎず、少なすぎず、

 

それらを眺めながらお客様にくつろいでもらうことまで

 

配慮するのはさすがサービスのプロ、中村さんの技と

 

言うべきでしょう。銀座らしいちょっと大人の会話と

 

美味しいお酒でゆっくりと心と身体を潤したい名店です。

 

中村さんのトークも実に軽快で味わい深いですよ。