Compass №120

「THE NIKKA BAR」


 

「酒郷」

 

「ニッカウヰスキー」の故郷、北海道。

 

道産子として贔屓があるのかもしれないが

 

やはりニッカを呑むなら北海道が一番旨い。

 

ちらつく雪景色を黙って眺めながらグラスを

 

ゆっくりと傾けて液体を喉に流し込む瞬間の

 

ときめきに近いような感覚は何とも言えない

 

喜びが下っ腹の方からググッと喉元へと来る。

 

北海道で呑むニッカというだけでも旨いのに

 

今宵はもっと旨くなる場所でお酒を愉しんでいる。

 

札幌すすきの「THE NIKKA BAR」。

 

お店のガラス扉を押すと正面にバーカウンター、

 

左右にボックス席があり席数は総数70席程度。

 

カウンターやフロア床など木材をふんだんに使い

 

一部にはレンガ材を用いて北海道開拓使時代の

 

建物内部の雰囲気を出しており割と落ち着ける。

 

客層は大変幅広く、20歳代のOLさん同士から

 

80歳のベテランドリンカーまでズラリと揃い

 

ニッカのお酒達を片手に会話に花を咲かせている。

 

特製オードブルやラムのたたきなど料理を囲んで

 

ウイスキー談義に興じるグループの姿もある。

 

私がいつも座るのは入って真っ直ぐ正面にある

 

カウンターのストゥール。少し上の方を見ると

 

バックバー最上段に普段ナカナカお目にかかれない

 

ニッカのボトル達が並べられているのに気付く。

 

元々の持ち主は私の目の前に立つ笑顔が素敵な

 

御年80歳を超えるバーテンダー、菅 勇氏。

 

夕食もまだなので厚切りで旨い特製かつサンドと

 

竹鶴のハイボールを菅さんにお願いするとしよう。

 

バックバーの背中部分はガラス窓になっており、

 

そこから小雪越しに見えるネオンが酒欲を誘う。

 

 


「タフ」

 

純白のバーコートが大変良く似合う菅さんだが

 

実は東京日本橋生まれのチャキチャキの江戸っ子。

 

戦後すぐ立川の米軍ベースキャンプ内のクラブで

 

進駐軍のお客さんを相手にバーテンダーとしての

 

接客技術や調酒技術を磨き上げたそうである。

 

私の知る進駐軍クラブご出身のバーテンダーは

 

菅さんをはじめとして数名の方がいらっしゃる。

 

札幌「バーやまざき」の山﨑さんや東京渋谷の

 

「コレオス」大泉さん、吉祥寺「George's Bar 」の

 

佐伯さんといった蒼々たるバーテンダーが並ぶが

 

皆さんに共通しているのは「タフ」という事だ。

 

ご年齢を忘れさせるその精神力は長年の鍛錬が

 

積み重なったものであり恐れ入るばかりである。

 

菅さんなどは仕事が終わった後に馴染みのお店を

 

3~4軒もハシゴするそうで、しかも一軒あたり

 

最低2~3杯はウイスキーを呑むんだから凄い。

 

もちろんこれは菅さんご本人の証言だけではなく

 

菅さんが通うお店の方々からも聞いた話である。

 

「普段ナカナカ顔を出せないので、行くとあっちも

 

こっちもとつい何軒かハシゴしてしまうんですよ。」

 

大笑いしながらそう話す菅さんの目のキラキラとした

 

輝きは同じ酒呑みなら分かる「サイン」だといえる。

 

私が菅さんのお歳になるまでにはまだ50年もあるが

 

同じ輝きを失うことなくお酒や人と付き合って行きたい。

 

 

 


「THE NIKKA BAR」

 

北海道札幌市中央区南4条西3丁目

 

第3グリーンビル2F

 

011-518-3344

 

最寄り駅

 

札幌市営地下鉄・市電すすきの駅から徒歩2分

 

お店一口メモ・・・

 

オーセンティックとカジュアルを

 

上手く合わせ持つお店であるといえます。

 

一人で呑むのも佳し、仲間同士で呑むのも佳し、

 

接待などに使うのも佳し、幅広い使い方が

 

出来きてしまうお店となっております。

 

オリジナルコースターに書かれた一文、

 

「THE NIKKA WHISKY PRODUCTS OF HOKKAIDO」

 

の文字に思わず目頭が熱くなる私なのでした。