Compass №118

カクテルバー「Don Juan(ドンファン)」


 

「ボス」

 

バーテンダー界の「ギャング・ボス」と呼ばれる

 

御年70歳を超えても益々盛んなバーテンダーが

 

港町「小樽」の歓楽街で老舗バーを営んでいる。

 

カクテルバー「Don Juan」主人、山下健一郎氏。

 

店名・ロゴと「Since 1967」のプレート文字が

 

黄金色に輝く木製ドアのノブに手を掛けて押すと

 

薄暗いカウンターの奥の方から恰幅が良く眼光鋭い

 

そのボスが「いらっしゃい」と声を掛けてくれる。

 

白いバーコートを羽織り、蝶ネクタイにサングラス、

 

そしてスキンヘッド姿はもうゴッド・ファーザーだ。

 

店名「Don Juan」はスペインの伝説上の人物であり

 

美男の好色漢、愛の貴公子として多くの文学に登場。

 

モーツァルトのオペラ曲「ドン・ジョヴァンニ」も

 

この伊達男を題材とした曲として有名だと言える。

 

その名を店名にするというのは実に山下さんらしく

 

イイ意味で「ニクイ」ところを突くネーミングである。

 

カウンター中央のストゥールにゆっくりと腰を下ろし

 

差し出されたウォッカ・トニックを呑んでいると

 

「はいよ。食べて。」と旨そうな太巻きが登場する。

 

あっ、そうか。今日は節分だったか。それにしても

 

バーで太巻き、しかも一本登場したのは始めてである。

 

「ふるちゃん、太巻きをちょっと縦にして持ってくれ。」

 

と言って山下さんが太巻きの上から豪快に醤油を垂らす。

 

ジワジワッと下へ醤油が染み込むのだがこれが結構旨い。

 

さらに「腹がはち切れるまで食べてくれ。旨いから。」と

 

温かなエッグ・スープと柔らかなチーズのクレープ巻の

 

お皿が登場したのには流石に驚きを隠せない私だったが

 

その美味しさのあまり呑むのもすっかり忘れてガッつく。

 

 


「整然」

 

食事の後はカクテル・タイム。ギムレット、サイドカー、

 

マーティニと呑み進めながら山下さんと会話を愉しむ。

 

業界内外での顔も大変広い山下さん。話は銀座のバーへ。

 

「こないだもさぁ、春夫ちゃん(5517の稲田氏)や

 

上田(テンダーの上田氏)や毛利(毛利バーの毛利氏)の

 

店へ行って呑んだけど、俺、勘定払ったことないのさ。

 

いつも誰か知り合いがそこにいて払ってくれるんだも。」

 

カッカッカッとまるでTVの水戸黄門様を彷彿とさせる

 

なんとも豪快な笑い。さすがギャングのボスである。

 

そんな山下さんだが、バーテンダーの仕事については

 

大変細かい方であり、若手への教育も非常に熱心だ。

 

まずは整理整頓、そして清掃。調酒技術を学ぶ前に

 

グラスやボトルがきちんと同じ向きで並んでいるか、

 

酒棚にホコリが溜まっていないかなど基本的事項だが

 

特に若手バーテンダーが見落としがちなところであり

 

お客様に空間を提供する仕事でもあるバーテンダーの

 

重要な仕事、そして接客技術なんだぞと言う山下さん。

 

呑み手側である私としてもカウンターに座った時に

 

真っ先に眺めてしまうのはバックバーに並べられた

 

ボトル瓶達とグラス達であり、整然としたそれらは

 

そこに心地良さと、適当な緊張感を作りだしてくれる。

 

雑然としたお店はどうしても気持ちが緩んでしまい、

 

それはそれで良いのかもしれないが、一日を終えて

 

明日の活力を養うためにとリフレッシュした空気を

 

体内へ送り込むには、やはりボトルやグラスが輝き、

 

ずらり整列するバーで気持ちを引き締めたいものだ。

 

「ボス」にはこれからも多くの事を学ばせて頂きたい。

 

 


カクテルバー「Don Juan(ドンファン)」

 

北海道小樽市花園1-12-21

 

0134-25-1399

 

最寄り駅

 

JR小樽駅から徒歩13分

 

お店一口メモ・・・

 

バーテンダー界のギャング・ボス、山下さんは

 

実は整骨院の院長というお顔もお持ちの方です。

 

身体のツボだけではなく、心のツボを押して

 

楽しさと元気をタップリ提供してくれる方です。

 

一見すると恐そうにも見えるかもしれませんが

 

器のとても大きな優しい紳士であり、真の意味で

 

「ダンディ」と呼べるバーテンダーだと思います。

 

小樽に行く際には是非とも立ち寄りたいお店です。