Compass №115

「BAR ねもと」


 

「胸花」

 

12月。札幌ススキノにも雪降る季節となった。

 

ロングコートを羽織ったサラリーマン達が

 

白い息を吐きつつ、足もとに気を付けながら

 

一日の疲れを癒しにと自分の止まり木を目指す。

 

吹雪の中、冷え切った身体でお店へと続く階段を

 

静かに下り、ドアノブに手を掛け扉を押した瞬間、

 

頬に伝わる暖かな空気に思わずニヤッとしてしまう

 

感覚というのは北国のバーならではの嬉しさがある。

 

今宵足を運ぶ一軒もそんな素敵なバー。

 

平成13年4月開店、「Barねもと」。

 

左胸に美しき花がデザインされたベストが似合う

 

若き麗人オーナーバーテンダー、根本亜衣女史が

 

10席あるカウンター席を一人で切り盛りする。

 

私と同世代、まだ30代前半でオーナーを務める

 

根本さんは札幌の老舗バー「バーやまざき」にて

 

名バーテンダー山﨑達郎氏の下、調酒やサービスの

 

技術を長年磨き、チーフバーテンダー経験を経て

 

20代の若さでご自身のお店を持つに至っている。

 

元々は同じ「バーやまざき」ご出身の先輩である

 

バーテンダー松川泰治氏が「バーまつかわ」という

 

お店を営んでいらっしゃったが、体調面などから

 

一線をお引きになられ、師匠である山﨑さんから

 

根本さんに独立して松川さんの後をやらないかと

 

大抜擢の末、名店といわれた「バーまつかわ」を

 

ほとんど手を加えずに居抜きで営業なさっている。

 

やわらかな照明の光と温もりある木目のカウンター、

 

そして根本さんの笑顔は我々飲み手をホッとさせる。

 

 


「満遍」

 

接客技術というものは経験の積み重ねの結果だなと

 

根本さんを見るたびにつくづく勉強させられる。

 

中央で少し折れてはいるが、ほぼ横長なカウンター。

 

10席あるストゥール、お客さんは両端に座っている。

 

そんな時でも彼女は決してどちらか一方のお客さんを

 

相手にするというサービスはしない。絶妙な間合いで

 

両者を往来しながらお酒を提供しつつ、適度な会話で

 

お客さんを飽きさせることが無い。しかも根本さんは

 

共通な話題などを上手に引き出し、離席のお客さんの

 

会話を大いに盛り上げ、最後にはどちらという事無く

 

「お隣に移ってもよろしいですか」と言う場さえ作る。

 

また何せ一人で切り盛りするものだから、満席の時は

 

手一杯な彼女。しかしお酒を待つお客さんに満遍なく

 

話しかけることで「待ち」のお客さんを飽きさせない。

 

そしてお客さん側もお店のその混雑状況をよく理解し、

 

「待ち」の時間をゆっくりと愉しむ方ばかりである。

 

調酒技術も日々の練習と実際の経験がモノを言うが

 

加えて接客技術というのは一朝一夕で出来る事では無く

 

長年積み重ねた現場経験がストレートに現れるものだ。

 

笑顔で「本当はいっぱいいっぱいなんですけどね。」と

 

いう彼女だが、その落ち着き、そして無駄なき動きは

 

バーテンダーとしての資質と経験が取るように分かる。

 

そんな彼女が作るカクテルはピンと筋が通っており、

 

師匠である山﨑氏が昔所属していた東京會舘の薫りが

 

する伝統的な味わいである。特にドライマーティニは

 

主婦でもあり、そしてお母さんでもある彼女の芯強が

 

大いに伝わってくる私の大好きな辛口の一杯である。

 

 

 


「BAR ねもと」

 

札幌市中央区南4条西5丁目

 

つむぎビルB1F

 

011-221-9333

 

http://www.nishiya-it.net/barnemoto/

 

最寄り駅

 

札幌市営地下鉄・市電すすきの駅から徒歩3分

 

お店一口メモ・・・

 

主婦とバーテンダーの二束のわらじを履きながらも

 

いつも元気に明るい笑顔で接客する根本さんに

 

その元気を沢山分けてもらうお客さんも多く、

 

客層も老若男女問わず20代から60代までと

 

大変幅広い方々が集まる止まり木です。

 

女性ならではの気配りにホッとすることがある

 

なんだかとても温かいグッドバーと言えます。

 

フレッシュフルーツを使ったカクテルや

 

ワイン、シャンパン、スパークリングワイン、

 

シングルモルトウイスキーなどがお勧めです。