Compass №114

「Ne Plus Ultra」


 

「古城」

 

車で六本木4丁目へ。

 

タクシーはゆっくりと「俳優座」の前を過ぎる。

 

昭和29年に設立された座席数300席ほどある

 

この老舗演劇場は舞台芸術のフロンティアである

 

「劇団俳優座」が活躍する新劇活動の中心の一つだ。

 

元俳優座座員には菅井きん、仲代達矢、田中邦衛など

 

日本を代表する蒼々たる俳優陣が顔をそろえている。

 

そのすぐ裏側、ここは中世の古城のか?と思わせる

 

石造りの建物の前で車は止まった。重厚な木製扉は

 

不思議な緊張感があり、取っ手を持つ手に力が入る。

 

扉の隣には店名の書かれたプレート。

 

「Ne Plus Ultra」。

 

スペイン語で「この先はなし」、つまり「最上級」

 

という意味を持つ文字だけが刻み込まれている。

 

このあたりは外国人も多いが、好奇心旺盛な彼らも

 

一体何のお店か分からず入ってきたことが無いそうだ。

 

階段を静かに下りるとそこはまるで古城の地下にある

 

ひっそりした特別来賓室の様な佇まいの空間が広がる。

 

照明はギリギリまで絞られており、私の知っている

 

バーの中でもきっと最も薄暗いBarではないだろうか。

 

バックバーに並べられた酒瓶達が少し鈍い色で輝き、

 

その中央に設置された巨大な葉巻のヒュミドールが

 

とても印象的で変わった造りをしているのが分かる。

 

BGMはオペラ・アリア集。

 

美しく、どこか切ない音楽が広い店内に響いている。

 

TVゲームの名作「バイオハザード」に登場する

 

古い洋館を彷彿とさせるピンと張りつめた空気に

 

否応なしに一種興奮を覚えるのは私だけだろうか。

 

 


「古瓶」

 

オーナーバーテンダーは古田浩二氏。

 

南小岩「M'skey」、赤坂「White Label」の主人でもあり、

 

三足のわらじを履きながら精力的にバーを経営している。

 

今宵の客は私一人。

 

その古田さんを独り占めだ。

 

サイドカー、ダイキリ、マーティニ。

 

まるでご本人の性格を映し出しているかのように

 

古田さんの作るカクテルはどれも優しさに溢れている。

 

刺々しさが無くまるみを帯びた液体達を呑みながら

 

昨今都内に誕生したBarやこれからのBar文化、

 

ウイスキーと葉巻、会話は次々と広がっていく。

 

話の節々に感じ取れるのは古田さんの深いBarへの愛。

 

Barという日常空間とは一線を画した特別なこの空間で

 

今日一日の疲れを癒すべく、旨いお酒とイイ音楽、

 

そして豊かな時間と空気を提供することを主眼として

 

理想のBar作りに取り組むことを生き甲斐にする姿は

 

氏には負けじとBarを愛する私には眩しすぎるくらいだ。

 

眼前の酒棚にはマニアなら垂涎モノのオールドボトルが

 

ズラリと顔を並べており、グラスはバカラやラリアット、

 

シガーはキューバの首都、ハバナ産など極上モノが並ぶ。

 

内装、調度品、グラスなどそれら全てが洗練されており

 

古田さんの「こだわり」がその一つ一つのアイテムから

 

ひしひしと我々Barを愛する呑み手の心に響いてくる。

 

「ふるさん、暖炉のあるソファーの席も必見ですよ。」

 

古田さんの隣に立つ大場バーテンダーがカウンターから

 

ホールへ出てわざわざテーブル席の方も案内してくれる。

 

大理石の暖炉、そしてアンティークのソファーがあり、

 

今にもコニャックをゆっくりと愉しむ中世の貴族達の

 

話し声が聞こえてきそうな空間がそこに広がっている。

 

今度お邪魔する際にはこの席でと、古田さん、大場さんに

 

リクエストしておく。お二人から快い返事が返ってくる。

 

六本木、いや、東京のBarシーンに一石を投じるだろう

 

今後も注目していきたい一軒と言えるグッドバーである。

 

 

 


「Ne Plus Ultra」

 

東京都港区六本木4-9-1

 

佐竹ビルB1F

 

03-3475-5525

 

最寄り駅

 

地下鉄六本木駅より徒歩6分

 

お店一口メモ・・・

 

入り口はBarとは思えない門構えのため

 

少しわかりづらいですが店名のプレートを

 

確認して頂くと分かることと思います。

 

年末年始以外、日曜日も営業なさっており

 

六本木で日曜も通えるのは嬉しいですね。

 

オールドボトルを含めドリンク価格設定は

 

大変リーズナブルであるのもポイントです。

 

非日常を体現したBarで一杯どうですか?