Compass №110

「Public Bar バラライカ」


 

「三六」

 

北海道のほぼ中央に位置する街、旭川市。

 

人口では札幌市に次ぐ北海道第二の都市であり

 

「山頭火」などを中心にラーメンの街でも知られ

 

最近では「旭山動物園」の人気で有名な中核都市だ。

 

その旭川市の2条から4条、5丁目から7丁目付近は

 

おおよそ2000軒以上の飲食店が軒を連ねており

 

通称:「三・六」(さんろく)街と呼ばれる歓楽街が広がる。

 

この由来は中心が3条6丁目ということで「三・六街」説、

 

大雪山の麓にあることから「山麓街」という説などがあるが

 

Barファンの間では大変豊かなBar文化を持つ街として

 

全国的に知られており、実力店も数多く点在している。

 

その旭川Barを代表するお店の一つ、「バラライカ」。

 

昭和36年開店、オーナーバーテンダーは中屋 健氏。

 

中屋さんは長年に渡り社団法人日本バーテンダー協会の

 

会長をお務めになった方としても広く業界に知られている。

 

Barのカウンターでショートカクテルをオーダーすると

 

バーテンダーがよく冷えたグラスを目の前に取り出し、

 

そこへシェーカーから静かに液体を注ぐ姿を目にするが

 

この「冷えたグラス」をカクテルに初めて使用したのが

 

中屋さんであり、その技術が全国へ広まったものである。

 

店名の「バラライカ」はロシア民族楽器の名称であるが

 

中屋さんが独立するにあたり、その当時旭川の飲食店では

 

BGMにロシア民謡やシャンソンなどが良く流れており、

 

中屋さんも好きなロシア民謡にあやかって名付けたそうだ。

 

かつてドラマ「Gメン'75」などにも登場した「バラライカ」は

 

今も創業当時の面影を残しながら旭川三・六街を見守る。

 

 


「ラバ」

 

今宵もカウンターに座りながらゆっくりとカクテルを愉しむ。

 

オーダーしたのはお店一番人気である「モスコー・ミュール」。

 

1946年に、米国ハリウッドのサンセット大通りに面した

 

レストラン「コックンプル」で「モスクワのラバ」 という名で

 

誕生したこのカクテルは現在ではすっかりお馴染みであるが

 

中屋さんが作るモスコ・ミュールは他店とはどこかひと味違う

 

「旨み」があり全国からモスコ・ファンが訪れることでも有名だ。

 

もちろん銅製のマグカップで供されるのは言うまでもないが、

 

よく冷えたモスコの爽快感が一日の疲れを消し去ってくれる。

 

この日は中屋さんの奥様もカウンターにお立ちになっており

 

ご年配の常連のお客様との会話も楽しく弾んでいるようである。

 

私は中屋さんが会長をなさった日本バーテンダー協会の裏話や

 

旭川をはじめ北海道、さらには全国のBar文化の移り変わりを

 

ゆっくりとお聞きしつつ御大の作るカクテルをじっくり味わう。

 

どのカクテルも「安心感」の中に「粋」を感じさせる仕上がりで

 

ヴェテランバーテンダーならではの「もてなし」が伝わってくる。

 

ふと腕時計を見ると24時を回っており、そろそろ締めの一杯。

 

お願いしたのは角ハイボール。特級の旧ボトルを取り出す中屋さん。

 

「昔は旭川のバーでもこれが人気で立ち呑みするほどだったなぁ。」

 

ソーダを静かに注ぎながら昔を懐かしむように少しだけ目を細め、

 

至福の一杯を私に差し出してくれる。モスコーに負けず旨い。

 

お会計を終えて「またお邪魔しに参ります。」と軽く会釈した私を

 

笑顔で見送ってくれる中屋さんご夫妻にはいつまでもお元気で、

 

そして旭川の「顔」として頑張って頂きたいと願うばかりである。

 

 

 


「Public Bar バラライカ」

 

北海道旭川市4条通6丁目右7

 

0166-22-1858

 

最寄り駅

 

JR旭川駅から徒歩7分

 

お店一口メモ・・・

 

店内は老舗らしく落ち着いた雰囲気ですが

 

肩に力が入るようなお店ではありません。

 

女性同士のお客さんもよくお見かけしますし

 

よく若いお客さんも会話とお酒を愉しんでいます。

 

バー初心者から上級者のお客さんまで幅広い層の

 

方々がウイスキーやカクテルを味わっています。

 

旭川の「顔」とも言うべき中屋さんの作る

 

モスコー・ミュールを是非とも味わって下さい。