Compass №106

「BAR WHISKEY」


 

「十年」

 

道頓堀交差点を西に150mほどいった地下に

 

目指すお店はひっそりとその灯りを点している。

 

実は10年前に私が大阪で訪れた初めてのバー。

 

ミナミの老舗店、「BAR WHISKEY」。

 

お店へと続く階段を静かに下り、ドアを開けると

 

カウンター席はほぼ満席。シマッタ!と思ったが

 

お店入口からすぐ前、コーナー席の常連さん達が

 

笑顔で「ココええよ。ええよ。」とこんな若造の席を

 

わざわざ作ってくれる。大阪の良さはここにあるなあ。

 

「お久しぶりですねぇ。今日は東京から出張?」

 

やや小柄で口髭が良く似合うオーナーバーテンダー、

 

小野寺清二氏がおしぼりを私へと差し出してくれる。

 

今日は仕事で来たこと、こちらのお店へ初めて来てから

 

もうかれこれ10年になることを小野寺さんへ告げると

 

「そうか、もう10年とは時間が経つのは実に早い。」と

 

私の顔をゆっくりと眺めながら感慨深げに腕を組む。

 

「小野寺さんは10年前とお変わり無く見えますよ。」

 

と私が言うと、ニヤッと少し微笑みながら小野寺さんは

 

「いやいや、最近はめっきり酒が弱くなりましたわ。

 

若い頃に強い酒ばかりやってたからやと思います。」

 

とジン・トニックをコースターの上へ差し出してくれた。

 

ギュッと絞ったライムの酸味とジュガッとした炭酸が

 

疲れた身体に気持ちよく、涼しさを演出してくれる。

 

静かに流れるゆっくりとした時間、お客さんの雰囲気、

 

どれを取っても初めてこのお店にお邪魔させて頂いた

 

あの日と変わりないのはお店に寄せる小野寺さんの

 

深い愛情とこだわりが変わらないという証拠だろう。

 

 


「キリ」

 

ジン・トニックを飲み干し、次はギムレットをお願いする。

 

ギムレットは「木工用のキリ」を意味するカクテルであり、

 

ジンにライムというシンプルな構成でオーソドックスな

 

辛口の味わいは身も心もスッキリとさせてくれる一杯だ。

 

材料を手早くシェーカーへと注ぎ、どっしりと構えて

 

一心に振り込む小野寺さんの一連の動作には無駄が無く

 

ヴェテランらしいそのシェーキングについ見とれてしまう。

 

シェーキングを終える際にまるで「座頭市」かのように

 

シェーカーを斜めに切る姿がいつみてもひたすら格好イイ。

 

もちろん味わいも格別であり、シンプルなカクテルだけに

 

ごまかしの効かないスタンダードカクテルの一つであり

 

思わずその美味しさに魂までホッとした気持ちになる。

 

お店にBGMは無い。お客さん達の会話がBGMである。

 

最後は角ハイを呑みながら昨今の大阪のバーや立ち呑みの話で

 

カウンターの内と外が盛り上がりながら夜は更けていく。

 

最近は若いお客さんも増えてきたと小野寺さんはおっしゃるが

 

オーセンティックなバーにはまだ足を踏み込んだことが無い

 

若手のドリンカーにもオススメしたい正統派のとまり木である。

 

 

 


「BAR WHISKEY」

 

大阪府大阪市中央区道頓堀2-4-14

 

シモウラビルB1F

 

06-6211-9625

 

最寄り駅

 

大阪市営地下鉄御堂筋線なんば駅より徒歩5分

 

お店一口メモ・・・

 

ウィスキー、カクテル800円~。

 

扉を開けるといかにもミナミのお店らしい

 

アットホームな空気に癒されます。

 

時を経た渋みがカウンターに滲み出ており

 

お酒に対する深い愛情を持つ小野寺さんの

 

時代に流されないスタンスが大阪の飲み手の

 

ハートを掴んで離さないことでしょう。